庭にある小さな蔵の片隅にあるベットにしえみを横たわらせ、乱れた髪を撫でてやる。
悪魔の仕業とわかった以上早く処置せねばいくら下級悪魔でも命の危険に晒される…


「あたしはダメな母親さ…」

「そんなこと…“親の心子知らず”ですよ、女将さん。特にこの年頃は難しいもんです。」

「アンタ若いのに随分悟ってるねぇ。」

「この仕事してると老けるんですよねぇ。」

「…ヤレヤレ」


とりあえず彼女が起きるのを待とうとお店の方へ向かう途中、先程まで一緒にいたはずの燐が居ないに雪男が気づいた。


「だから鎖つけとけって言ったのに。」

「ハァ…頭が痛いよ。」

「ね?女将!15歳にしてこの老け方!!」

「アッハッハ!全くだっ!」


燐を連れてくると踵を返す雪男の背を見て、からかってはみたが身長は伸びても、まだまだ15歳の背だ。そしてあっという間に成長してしまうんだから成長期は恐ろしい。
そんな事を考えれば、本当に老けたなぁと苦笑いした。


「…ねぇ女将さん、しえみを祓魔塾に入れてみない?」

「!?何言って…あの子にはムリさ!」
「そうかなぁ。きっと大丈夫だと思うんだよね。私はもっと広い世界をみて欲しいな。」


「……でも……」

「大丈夫!雪男も私もいるから!!勿論しえみが行きたいって自分の意思で決めたらね!!」










―――――――――……



夢でおばあちゃんが笑っている。





『ねぇしえみ、“天空の庭”って知っているかい?』

『ううん、おそときらいだもん。』


首がとれるのではないかと言うほど振っておばあちゃんのいう天空の庭とは何かを聞いてみる。


『神さまが世界中の植物を集めて創ったお庭なんだってよ?そこに行けば世界中の草花に逢えるんだって話さ。』

『ほんと?わたしいってみたい!おばあちゃんいっしょにいこ!』

『う〜ん…そうだねぇ。ばあちゃんも行きたいけど、あたしゃもう歳で足が痛いからねぇ…この庭はおばあちゃんの宝物だからね。ほっては行けないよ。しえみが大きくなったら探しに行っといで。』


私は馬鹿だから、おばあちゃんから聞いたお伽話を何時までも信じて…そのせいでおばあちゃんが……


『あたしに力を貸してくれる…?』


妖精さん?


『一生一緒に守ろうね…』



そうだ、あの時妖精さんとしゃべったじゃない。あれが…悪魔ッ!!


「!!!」

「大丈夫か?」

「!?…燐…」


大きく息を吸っては吐いてを繰り返すけれど、苦しさは収まらない。身体が怠くて重い。


「おい、お前の母ちゃん心配してんぞ。」


『こんな庭!お前が身体壊してまでやる価値ないんだよ!』


「…な、なんで…あなたにそんなこと……ひどいのはお母さんだもん!」


私があの時ここを離れなければ…おばあちゃんは…


「私はこの庭を…おばあちゃんの庭を…守るって決めたんだから…!」


おばあちゃんの宝物は私が守らなくちゃ…!


眉を寄せて立ち上がった燐は、おもむろに刀を掴むと、突然庭の植物に向かってそれを振り回した。おばあちゃんの宝物が壊されていく姿に一瞬息が止まる。何が起こっているのか理解出来ず、
ただ止めようと必死にもがく。



止めて…!…足よ…動いて…動いてよ…!!


「やめて!やめてよ!」





―――――――――……




「やめて!やめてよ!」


蔵の方から声が聞こえ、女将さんを置いて走る。悪魔が動いたか!?やはり早く処置すべきだった!

蔵の少し手前で雪男が何かを見つめているのを発見し、そちらを見れば蔵の前で燐がしえみに食ってかかっていた。


「あのバカ!!女の子に手だすなんて…!」

「待って下さい。」


燐を止めようと前に出れば雪男は手を出すなと言わんばかりに止める。


「ゆき「母ちゃんに心配かけないでやれッ、それが出来ないならやめろ…それにお前が本当にやりてーのはアマハラの庭を探すことだろ!!」


燐…


「それともお前のバァちゃんはそーゆーお前に行くなって言うのか?」

「う、ううん…いわない…」


やり方は乱暴だし言葉足らずではあるが、燐の言っている事は正しかった。


「いわないよ…!うう、う…うわあああああ!私…バカだ…もう足が動かないよ……」

「こんな根っこ俺がぶった切ってやる!!!」


正しいのだが………


「やり過ぎだ!!」

「イデッ!!」

「えーと…盛り上がってるところ申し訳ないけどそんなザコあっという間に祓えますよ。」

「燐っ!!女の子の胸ぐら掴むとは何事や!?全く…もうちょっと物事考えて行動しな。」

「透子さん僕喋ってます。後、京都弁に戻ってます。」


燐に説教をしていれば、どこからか声が聞こえ始め、しえみの足が急に異変し始めた。どんどんと伸びる根から身体中に茎や葉が生え始め、最後には花が咲く。



「き…きゃああぁ!」

「ッチ、山魅かっ!」

「しえみ!」


しえみを盾にするように現れた悪魔は甲高い声で此方に向かって高笑いしている。さて、どうするか…
手を出すべきか、雪男に任せるべきか悩んでいると、雪男は意外にも燐に協力を頼んでいた。そのまま二人の後ろで様子を窺う。

燐の攻撃に悪魔はしえみを盾に攻撃を防ぎ、すかさず燐に連続攻撃を仕掛ける。

耳障りな甲高い声が「切れるもんなら切ってみなさい!」と高笑う。


「…雪男。」

「…はい。……仕方がない……こうなったら彼女ごと撃つしかない。」


雪男が銃を構えると、悪魔は少し焦りをみせたが、ハッタリだと笑う。


「生憎、祓魔師は優しくないの。」


今度は私も銃を構える。


「きゃははッ!ハッタリね!あたし達だまされないわ!」

「そう思うか?そうかもしれないな?さてどっちでしょう。」


雪男の言葉が癇に障ったのか一気に攻めてくる悪魔。


「クソ偽善者どもが!!!撃てるワケねぇだろが…」


雪男が一発放つと見事にしえみの左肩に命中した。


「!!雪男」

「ヒィ…ギャアアアァァ」


雪男の弾を恐れた悪魔はしえみから離れ飛び出した。雪男の叫ぶ声と共に私の放った弾が命中し、すかさず燐の振るった刃で真っ二つとなった。


「雪男ォッ!!」

「…あ…雪ちゃん……?」


気を失っていたしえみが目を冷ますと、本気で銃弾を打ったと思い込んだ燐はぽかんと口を開けて驚いていた。勿論打ったのは銃弾ではなく、栄養剤なためしえみは無事悪魔を祓うことが出来た。


「あっれ…!?」

「……良かった。」


しえみの足も元に戻り、燐と雪男、女将さんとしえみを眺め、それからおばあさんの残した庭を眺める。


「バカな娘だよ…!心配かけて…!」

「おかーさん…ごめんなさい…」




しえみの大切なおばあさんの庭に、さわさわと心地のよい風が通りすぎる。


「ほんと…良い庭……」










風になびく花や木に、微かに感じる季節の香り。





明日もきっと晴れるだろう。















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