本日は休日。
祓魔師に休みはあってないようなものだ。
依頼が入れば休みだろうと出なければならないし、悪魔も休日だからといって大人しくはしててはくれない。

そんな貴重な休日に費やすのは道具の手入れや普段は出来ない掃除などをするのが一番で、竜騎士は特に道具のメンテナンスは欠かせない。
私だって年頃(もう24歳だが)の女だ。たまには遊びたくもなるけれど、元々昔からアクティブな方ではないため、遊ぶと言っても何をしていいのかわからないし、こうやって手入れをしながら穏やかな日を過ごすのは嫌いではない。

今日も例外ではなく、銃器のメンテナンスをしていると、買い置きして置いた聖水や、聖銀製被甲の弾丸がかなり減っていたことに気づき、天気もいいし買い物に行こうと祓魔師のジャケットを羽織って外へ出た。



祓魔屋の店先。
祓魔屋は祓魔用品専門店だ。祓魔師以上でないと入れないはずの店先には何故か見知った顔が一人ぶつぶつと呟いていた。


「何やってんだ…彼奴は…」


暫く様子を見ていれば、何かを見つけたようで店の隣の階段を駆けていく。

(確かあそこは…)




「ど、どうか見のがして…入ってこないで」

「お…俺は悪魔じゃねぇ!人間でもないけど…勝手に決めつけんな!!」

「ひ……こないでー!!!!」

「………!!」


(あぁーあ…)


「誰か…!!助け…きゃあっ」


「しえみ、落ち着きなさい。」


「「!?」」


一部始終を見ていれば、店の女将の娘、しえみが騒ぎ出したので、仕方無く止めに入る。

しえみは幼い頃から身体が弱く、ほとんど外に出たことがない。この祓魔屋に通うようになって暫くして、漸く顔を見せてくれるようになり、今では姉のように慕ってくれている。一人っ子だった私も素直な明るい彼女を見ていると妹が出来たようで嬉しかった。


「奥…燐。貴方なんで此処にいるの?此処は祓魔師以上立ち入り禁止よ。」

「ゆ、雪男が依頼だって言うから見学に…外で待ってろって。」

「透子ちゃん!悪魔が!!た、助けてっ!!」


酷く動揺しているらしく、燐を見て真っ青になっているしえみを落ち着かせようと、燐の頭を掴んで左右に振る。


「このチンチクリンが悪魔に見える?」

「オイッ!!や、止めろォー!!」


ぽかんと口を開けたままのしえみに一息吐くと、投げ出された足を見た。


「足の様子は?」

「!…お前って…足が悪いのか…」


掴んでいた 頭を離し、軽く撫でてやると、しえみを起こしてあげるように言った。





「あら、いらっしゃい。」

「どうも、女将さん。」

「透子さん!」


店に入ると雪男が女将さんと何かを話してる途中だったようだ。何時ものワンセットを頼むと女将さんは煙管を吹かしながらあいよと用意してくれた。


「雪男、燐には鎖でも繋いどきな!!庭の門壊してたよ。」

「えぇっ!!今兄さんは!?」

「しえみにコキ使われてる。ついでに門直しとくよう言っといたけど…それより女将さん。しえみの足、ぱっと見だけど、あれは悪魔の仕業だと思う。」

「なんだって!?」

「やはり…今からしえみさんの足を診ましょう。」


お店の裏口から三人で庭に出るとしえみと燐が座り込んで話しに花を咲かせていたようで、滅多に人に懐かないしえみが珍しいと驚いた。


「兄さん!ちょっと…!どうしてそういう事になっちゃったの?油断も隙もない…!」


おー雪男!なんて言いながらニコニコしている燐を見て、いつだかに聞いた話しでは、彼も今まで友達を上手く作れなかった類の子だから普通に話せる事が嬉しかったのだろうと少し安堵した。最近は燐や雪男を見ていると、しえみ同様弟が出来たような気持ちになるから困ったものだ。嬉しいのだが、講師としてはそういった贔屓目で見ないようにするのに苦労するし、特に燐のような子は危なっかしくて目が離せない。

しかし、兄弟がいない私にとってやはり嬉しい事の方が勝っているようで、燐と雪男の漫才のようなやり取りを微笑ましく思った。


悪魔の仕業かもしれないと伝えるも、しえみは嫌がったが雪男が足を診ることになり、着物の裾から足を出すと、そこには何か根のようなものが広がっていた。白く綺麗な足が痛々しく、これほどになるまで痛みを耐えていたのかと驚いた。


「透子さんが言った通りこれは魔障です。悪魔の仕業に間違いない。」

「じゃあしえみは…!」

「いえ、“憑依”はされていません。これは人に憑けるほど強力な悪魔の仕業じゃない。」


庭の植物に憑依した山魅か緑男か木霊か…何れにせよ下級悪魔の仕業だろう。

雪男としえみの会話を聞きつつ、ここは雪男に任せて大丈夫だろうと考えていると、女将さんの張り詰めた声が耳に入った。


「しえみ!お前はこの庭から出るんだ!!いくらおばあちゃんが大切にしていたからってこんな庭!お前が身体壊してまでやる価値はないんだよ!」

「…こんな庭…?」


突然の出来事に唖然とする燐に、冷静に眼を伏せて聞いている雪男を横目に、かつてのこの庭の主を思い浮かべる。


「この庭はおばあちゃんの宝物なのに!!…お母さんなんか大っきらい!!」
お互い感情的になったのか叫ぶように怒鳴ると、しえみの身体はふらりと傾いてそのまま倒れ、意識を手放した。




――――――………















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