名門私立・正十字学園。
将来を担う若者達が日々勉強に励んでいる。そんな私立正十字学園には悪魔を祓う“祓魔師”を育てるための塾、『祓魔塾』が存在する。
もうすぐ入学式を迎える学園内はいつにもまして忙しく、祓魔塾職員も例外ではなく忙しい日々を送っていた。
マザーウォーター
色素の薄い、真っ直ぐに伸ばされた髪は薄暗い廊下に僅かに入ってくる窓の光に照らされ輝く。コツコツと一定のリズムを刻む低めのヒールの音が静かな廊下に心地良く響いていた。
「よぉ」
「!?藤本神父(せんせい)!!今日はどうしたんですか?」
長い長い学園内の廊下を資料室から借りた大量の資料を持って歩いていると、紫煙をふかせ、祓魔師の証である黒いロングコートに身を包んだ男がニヤリと笑う。同じくロングコートに身を包んだ、まだ少年の幼さが僅かに残る青年が一歩後ろについていた。
「透子、医工騎士の免許とれたんだってなァ。おめでとさん!」
「ありがとうございます!それより雪男、もうすぐ入学だね!新入生代表にも選ばれたんだって?さすが!!おめでとう!」
校舎内で堂々と煙草を吸うこの人は祓魔師で祓魔塾講師であり、そして祓魔師でただ一人に与えられる最強の称号「聖騎士」を持つ藤本獅郎神父。最近は聖騎士の仕事が忙しいのか、滅多に塾には顔を出していなかった。そしてもう一人は藤本神父の義理の息子で、二年前最年少で祓魔師の資格を取得し、聖騎士を父に持つ天才児と噂されている奥村雪男だ。
新入生代表になるには入試でトップにならなければならないのだから、聖騎士の息子であることが関係あるかないかは兎も角、天才であることは本当のようだ。まぁ最も…二人は血の繋がりがないのだから少なくとも遺伝は関係ない。
「ありがとうございます、透子さん。それより重そうですね。持ちますよ。」
「へーきへーき。これ位持てないと!それより用事があって来たんじゃないの?」
「入学と同時に塾の講師になるからその挨拶まわりだ。」
「よろしくお願いします。」
そういえば数ヵ月前からその話しは職員の間で噂されていて、私の耳にも既に入ってきていた。
「こちらこそ、よろしくね!」
「雪男は入学と先生になるし、透子も無事免許もとれたことだし、お祝いでもすっかァ!」
「良いですねぇ!久しぶりに飲みにでも行きましょうか!」
「僕未成年ですよ。」
「あ、そっか。」
「修道院(うち)に来いよ!!もう1人の息子にも会わせたいしな!」
「ふふ、じゃあ楽しみにしてますね!!」
そんな会話を交わした次の日。
藤本神父は死んだ。
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