「あ、あれ?…迷った…?」


三輪と別れた後、顔色が優れないまま一日を過ごしていた為か、早く上がれと帰された。そのまま帰らずに薬局で市販の胃薬と飲むタイプのゼリーを購入したのがつい先程。辺りが暗いせいかどうやら道を一本間違えたようだ。虎屋からはさほど遠くない場所にある薬局に行ったのだから虎屋は近いはずと、虎屋があるであろう方向を確認した。すると、少し離れた建物の屋根から、微かな青い光が灯り、直ぐに消えたと思えばまた小さく灯った。


アノ…ガ覚醒…ス…


ドクン…
「…っ!!」


コバムナ…モ…遅…


ドクン
「ハッ…あ…ァ…」


割れそうなほどの頭痛に、響く声が良く聴こえない。霞んでいく景色の中、白い羽根が一枚、目の前を落ちていった気がした。






――――――――――……


「ん?」

「…どうかしたのか?」

「イヤ…何か一瞬嫌な気配がしたような……ま、気のせいか」


むわっとした空気に、汗で張り付いたTシャツが気持ち悪い。しかし子猫丸やしえみの涙が脳裏を過ると、ゆっくりと目蓋を下ろす。落ち着け…
生ぬるい風が一瞬止んだその時、頭の中でイメージした通りに火を出した。今までとは違い、ポッと微かな音をたててついた火は、真ん中を避け、左右に灯った。


「!!」

「おっ」

(おーっ)


ゆらゆらと揺れる青い小さな火は消えることもなく、生ぬるい風の吹く通りに揺れていた。





―――――――――……



ふわふわと浮いているような感覚に少しずつ覚醒していく。


『目覚めよ』


声に導かれて目蓋を上げると、目の前は真っ白な空間。何もかもが白く、境目がわからないため、この空間が部屋なのかそうでないのかも、狭いのか広いのかもよくわからない。ただひたすらに白かった。倒れていた状態から身体を起こすと、何もない無機質な空間にポツンと白い羽根を持つ梟がそこにいた。


“ここは…”

『――何故拒む』


先程の声が脳に直接響く。


“この声…夢で聴こえる声と一緒…ってことはこれも夢?”

『しかしもう遅い…アノ方が覚醒に向かっている…主も目覚めの時…』


語りかける声は私の言葉を無視して話し続ける。朦朧としていた意識が徐々に鮮明になっていく。


『我は主に遣える者なり…そして主は我々を統べる血筋の方に遣える者…』

“どういうこと?”

『従者は主人(あるじ)に就き、与えられた命を行うのみ…我に名は無い…好きに喚べ』


ガタガタン!!
地面が揺れたような感覚に我に帰ると、目の前にいた梟は消えていた。


『主の名は?』


頭に響く声は小さく遠ざかっていく。


“八坂透子”


『八坂透子、力の対価を――』


いつの間にか手首の傷が再び浮かび上がり、そこから滴る血がポタポタと数滴ずつ足元に落ちていった。

それと同時に足元にが崩れていく。スローモーションのように落ちていく身体にふと目を閉じた。






―――――――……



目を覚ますとそこは薄暗い小道だった。どうやら気を失っていたらしいと散らばった薬たちを袋に戻していると、近所が騒がしいことに気がついた。


おいおい地震か?
あっちの方から煙り出てない?


どうやら夢で感じた地震は夢じゃなかったらしい、近所に住む住人達が外やベランダに出て来ていた。煙りの上がっている方角はたしか……


ドクン


『出張所におるけど、何かあったら遠慮せんといいや?』


「……ッ…柔造!」








出張所からは何人か怪我人が外へ運ばれていた。


「中で何が起きているんですか!?」


目の前にいた職員を捕まえて訪ねると、祓魔師のコートを見てわかりまへんと告げた。


「ただ天井が崩れまして…まだ中に所長達がいてはる…!」


職員の最後まで聞かずに出張所内へ駆け出した。











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