「ゴーベヒモス!」
バンッバンッバンッ!
唖然としている生徒達に注意を促す為、重い銃声を鳴らして一気に走り出す。
ベヒモスと呼ばれた悪魔に向かって射撃するが、全て避けられてしまった。予想以上の素早さに感心すると、思いきり地面を踏み込む。
此方に向かって止まる気のないベヒモスを、此方も止まる事をせずにそれを飛び越え走る。
「シュラ!」
「あいよ!!ボヤッとするな!」
シュラは刀を自分の胸元から取り出すとベヒモスの攻撃を刀で弾く。シュラがベヒモスを相手にしてくれているうちに敵に向かって射撃するが、全ての弾は避けられた。そのまま射撃しながら近づいていき、ブーツの踵部分に仕込んだナイフを出すと勢いをつけて蹴りを入れる。
「ちょこまかとうるさいです…ねッ!」
しかし、蹴りは簡単に止められ、脚を捕まれたまま宙吊りのような格好になり、次の瞬間ハンマー投げかと思われるほどの力で一回転したまま投げ飛ばされた。
「くっ!!」
何とか受け身をとり、辺りにはズザザザーと土埃が立ち上った。ピュイッと音が鳴った瞬間に足元に炎が広がり魔方陣が光出すと、今度は敵が吹き飛ばされていった。
「魔法円を描いた時に中にいた者は守られ…それ以外を一切弾く絶対牆壁だ。まぁしばらくは安全だろ。」
「絶対牆壁…!?」
「これも訓練なんですか?いくらなんでもハードすぎじゃ…」
「そんな事よりさっきのは何なんですか!?」
突然の襲撃に不安からか捲し立てる生徒達にシュラは髪を結い直しながら冷静に説明し始めた。
「訓練は修了だ。今からアマイモンの襲撃に備えるぞ。」
「…は?アマ…!?」
「CCC濃度の聖水で重防御するから皆こっちに集まれ。」
次々に生徒は聖水を掛けられていく横で私は捕まれた所を包帯で巻いていく。大した怪我ではないが、捕まれただけで腫れ上がり、爪が食い込んだ場所から血液が流れていた。
「シュラちゃん。クナイ有るだけ貸して。後聖水も少し貰ってくから。」
「おい、何処へ行く気だ!?」
「その口振りだと放って置いてもアマイモンはもう一度来るんでしょ?だったら先に此方から行くわ。それに聞きたいこともある。」
「止めておけ。お前一人でかなう相手じゃない。」
「…アンタが何考えてんのか知らんけど、生徒を守るのは私の仕事や。考えあってのことやったらと思ったけど、他の子ら巻き込むんやったら許さへんよ。」
クナイをホルダーに納め、自らも聖水を被った。いくら勝てないからといっても、この牆壁に近づかせる訳にはいかない。試験の時のように、傷つかなくて良い者が傷つく事は許されないのだから。
「……あぁ〜あ、怒らしちゃったにゃあ。」
アマイモンが吹き飛ばされた方向を目指して走ると、木から木へと飛び移りながら移動をしている影を見つけた。牆壁からまだそう遠くないこの位置から何とか足止めしなければならない。
「アマイモン!!」
「およ?」
アマイモンに威嚇射撃をし、別の木に飛び乗った瞬間に素早く銃をクナイに持ち変え投げつける。頭を狙ったそれを避けようとした隙を狙って聖水の瓶をアマイモンの頭上目掛けて投げる。クナイを瓶に投げて割れた中身がアマイモンの頭上へ降り注いだ。上を見上げたアマイモンの眼に聖水が入り、両手で顔を覆い小さく悲鳴をあげ、そのまま木から落下していく。
両手に持てるだけのクナイを持ち、更に投げ、避けきれなかったクナイが服に引っ掛かり、そのまま木に突き刺さる。
「痛いなァ…やっぱりお前邪魔だな。」
「答えて。何故燐を狙う?」
やはり聖水程度では大したダメージにもならないか。
「邪魔するなら殺す…でも今日はダメだ。残念です。」
「答えなさ…」
最後まで言い終わらないうちに突然浮遊したかと思えば、骨がおれる音と共に激痛が走った。何が起こったかわからないほどの速さで蹴り飛ばされたようだ。
「ガハッ…!!」
「死なない程度にしてあげます。」
空中で再び蹴り飛ばされ、勢い良く地面に叩きつけられる。腕で受け身をとったが直に当たった左腕もどうやら折れたようだ。
「ハァ…ハァ…」
アマイモンはそのまま燐達のいる方向へ飛び差っていった。震える足を何とか立たせ、よろよろと後を追った……
―――――――――――………
「緊急連絡先にも先生方にも連絡つかないわ。」
「あの…アマイモンは一体何が目的なんです。」
「さぁ、何でかにゃあ?」
「透子先生も行ってしもたし大丈夫なんやろか…」
透子が飛び出してすぐ、落ち着かない生徒を横目に座り込むと、燐が珍しく小声で問う。
「おい…さっきの奴、理由は知らねーけど多分俺が目的なんだ!!」
「知ってるよ。まぁ安心しろ。この牆壁は地の王(アマイモン)だろうと並大抵では破れないつくりだ…だが奴も今回は多少計画的みたいだからなァ。」
「次にアマイモンが仕掛けて来た時は…お前はすぐ降魔剣と一緒にここから離れろ。」
「降魔剣って…!?」
手を腹の印に持っていき隠し持っていた降魔剣を取り出す。
目の前に差し出すと思いの外戸惑っているようで、受け取ろうとしない。
「…どうした?受け取れ。」
「え…な…か…勝手取り返せって言ってただろ。」
食って掛かるが何時ものような威勢は感じられず、困惑し不安を募らせているようで、なんとも情けない顔をしていた。
透子はこの顔を見るとつい甘やかしてしまうようだが、生憎あたしにはイラつく程度にしか思えない。
「んー?アタシの判断で返すとも言ったぞ。どうしたんだ?ホレホレ。あんなに返せ返せ言ってたくせにィー♪」
「お前は俺の炎を抑えたいんじゃないのか?『炎出すな』って忠告しただろ!!」
「うるさいよバカ、一応忠告したのに出しちゃったじゃん、お前。にゃっはははー。」
「…………!」
さて、此処からが本番だ。こいつの炎のコントロール能力ははっきり言って最低だ。あまりにも不安定過ぎる。
「お前みたいな奴がこれから炎なしでどうやって戦うんだ?」
力任せの戦い方はもう通用しないほど、覚醒は進んでる。
「アマイモンは雑魚じゃないぞ、考えてみろよ。え?」
どうしたらいい?何をすればいい?
答えてくれる奴はもういない。
「考えろ!!」
「杜山さん!?」
脅しじみた台詞を吐いた瞬間、騒ぎ出した周囲をみれば、生徒が一人牆壁の外を目指して進んでいた。
「おいおいおいおい!!止めろ!!!」
(げっ、あれは…!寄生虫か…!?)
杜山の首筋にはでかい何かが蠢いていて、牆壁を完全に出ると立ち止まった。
「!!!」
「しえみ!!」
「その娘に何をした!?」
再びアマイモンが目の前に表れ、杜山を自分の元に引き寄せる。
今にも飛び出しそうな燐を止め、アマイモンに問う。
「虫豸の雌蛾に卵を生み付けてもらいました。孵化から神経に寄生するまでずい分時間がかかりましたが…これで晴れてこの女はボクの言いなりだ。」
随分手の込んだことをしたもんだ――…
「…!?おい、透子はどうした?」
「?あぁ、さっきの女ですか。動けずにその辺で苦しんでるんじゃないですか?殺してはいませんから。」
「!!!」
チッ!だから止めたんだ!!
アマイモンは杜山を担ぐと森へと飛び出して行った。油断した隙に燐が後を追おうとするが、今度はアマイモンのペットが飛び出し燐に襲いかかるのを何とか防ぐ。
次から次へと!!……仕方ない…!!
燐に降魔剣を放り投げる。どう動くのか…頼むから考えて行動してくれよと願う他なかった。
「行け!!アタシも後を追う。」
「く………!!」
「お前らは死んでもその牆壁から出るなよ!!」
ペットを相手に苦戦していると、派手に暴れだしたアマイモンが、地面ごと燐を叩きつけたようだ。地面が崩れアタシ達のいる所までひび割れ落ちる。
「…ちょっとは手加減しろよ…!」
余所見をした隙を狙ってペットは爪を大きく振りかぶり、刀を盾にしたが、軽く吹き飛ばされる。
「チッ!面倒だな…『霧隠流魔剣ぎ「伏せて。」
「!?」
聖水の瓶が2本頭上を通ると銃声が2発なった。もろに聖水を浴びたペットは悲鳴をあげて逃げていった。
「透子!!」
木に手をつき辛うじて立っている状態で、血を吐いたのか口端には血の跡が残っていた。左腕は上がらないのか頼りなくぶら下がっている。
「み…んな…は…?」
「さぁな…アマイモンが派手に遊びすぎて牆壁も無事かどうか…」
「燐の…所に……ハァ、連れ…て…」
「その身体じゃあ行っても邪魔になるだけだぞ。」
「邪魔は…しない!」
「………」
――――――――――………
「これは…どういうことだ!?」
普段は飼い慣らされているはずの虫豸の様子がおかしく、次から次へと襲いかかり、時間をくってしまった。そもそも、誰かが上げたはずのロケット花火は、上げられた方向にたどり着いても、誰の姿もなかった。
異変に気づき急いで戻った先にはとんでもない光景が広がっていた。
「兄さん!!」
兄さんの手にはシュラさんが預かっていたはずの降魔剣があった。
「これは罠だ!誘いに乗るな!」
降魔剣を抜いてしまえば、学園から追放どころか兄さんが生きられる道は閉ざされてしまう…!
「雪男…わりぃ…俺、嘘ついたり誤魔化したりすんの…向いてねーみてーだ。だから俺は…」
ゆっくりと鞘から刀を抜いていく。
蝋燭に火が灯るように、兄さんは青い炎をその身に纏う。
「来い!!相手は俺だ!」
喜々と誘いに乗って攻撃を繰り出す地の王に、兄さんは降魔剣を盾にして避けていき、その場から離れるとほぼ空中で攻撃を出しあう。
気をとられていた意識が戻ると、生徒に移動するように呼び掛けた。振り向けばまるで化け物の喧嘩のような光景に冷や汗が背中を伝った。
「おー雪男!やっと見つけたよ。」
「どこへ…!透子さん!?」
「ゆき…みんな、は…?ハァハァ…」
「大丈夫。早く治療しよう。」
「それより先にこの森から離れた方がいい。すぐ脱出だ。」
シュラさんに肩を借りて辛うじて立ち、青白い顔で荒い呼吸を繰り返す透子さんは、顔を上げるのも辛いのか、それでも震える頭を必死に上げて視線を兄さんに向けた。
青い炎を纏う、兄の姿を目にした透子さんの瞳からハラハラと涙が流れていく。
「!?」
「ふっ…く…燐…!」
「………行くぞ…」
何故だか僕はこの時、兄さんを案ずるよりも先に、言い様のない怒りを感じた…
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主人公がシュラちゃんと呼んだりシュラと呼び捨てにするのは、間違ってるわけじゃなくて、わざとです。
割りとシリアスな時は呼び捨てにしますね。
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