※廉造の回想から入ります。前回の騒ぎの後という設定です。
先日、珍しく次男から電話がかかってきてから透子先生が気になってしゃあない。いや、何時も気にはなっとるがそうやなくて次男の柔兄と先生の関係についてや。
あの時は慌てて切ってしもうたが、気になって授業の後すぐに電話をかけ直した。柔兄はただの同級生や言うて「へぇ〜」なんて昔流行った奴のようなマヌケな音が出たが、良く考えたらビックリやん!!と言うか柔兄あっさりし過ぎやん!?何時もやったら懐かしいなぁ!!なんて言いそうなもんやけど…
怪しいなぁ…こりゃなんかあるわぁ…
直感がそう言うとる。しかも塾初日、透子先生は僕の顔みて似とる言うてはった。僕ら兄弟は何故かみんなそっくりやから、柔兄と透子先生が同級生なら僕が兄弟とわかってもおかしないはず。しかも名前一緒やし。
それにしても、柔兄も透子先生も隠してるみたいになんも言わん言うことは、色々掘り返したくない言うことやろ…
「なんや面倒な関係みたいやなぁ…」
「何がですの?」
「子猫ほっとけや。どーせ女の事やろ。」
「はっはっは………」
…止めや、止め。他人同士の事悩んでも仕方ない。今日の小テストや勉強で疲れた脳を休めるため目を閉じた。
―――――――――……
翌日。元々軽傷だった私は着替えを済ませてから、最後に祓魔師のジャケットを羽織れば何時もより重く感じられた。中に入った髪を出して軽く整えていると、部屋の扉を叩く音がしたのでどうぞと一言応えれば、開かれた扉から雪男が入ってくる。
「おはようございます、透子さん。具合はいかがですか?って、塾行く気ですか!?」
「ええ、元々軽傷だから平気。」
「無理はしないで下さい!今日は塾を休んだ方が良い。」
「大丈夫よ。私だって一応医工騎士の称号保持者だし!」
雪男は腕を出してと魔障を受けた利き腕を手にとり患部を見ていくと薬を塗られ、新しいガーゼと包帯で綺麗に巻いていく。
「それより朴はどう?」
「あと2、3日もすれば熱も下がりますよ。」
「そう。良かった…」
かなり広範囲で魔障を受けた朴もだいぶ落ち着いたようで安心すると、治療を終えた雪男が片付けをしながら昨日の不可解な出来事について話した。この学園は理事長によって中級以上の悪魔はそもそも入ってこれないはずなのだ。それをふまえると雪男もあの屍系の悪魔はネイガウス先生の使い魔だと考えたらしいが、では何故ネイガウス先生は生徒を危険に晒すような事をしたのか?試験だとしてもあまりに危険すぎる。
そう言えば、昨日の自分の失態を振り返る。
「……何にしても、私のせいで生徒が危険な目にあった。責任は私にあるわ。」
「それは違うよ。透子さんがあの場に居なかったらもっと深刻な事態になっていたよ。」
「いいえ」
右手を握りしめれば、包帯で巻かれた腕に力がこもる。
「あそこでしえみと燐が来なければ朴と出雲ちゃんはどうなってたか…竜騎士や医工騎士の称号を持っていたって何も出来なかった…」
「透子さん。あの時は危険が重なってしまったんだ。誰一人として貴方のせいだなんて思ってませんよ。」
握りしめた手を包むように雪男の大きな手が重なった。いつだかの逆だなと握りしめた手を緩めて、やっぱり雪男の手は優しい手だね。と微笑めば、雪男も一緒に微笑んだ。
「大半の悪魔は“致死節”という死の理…必ず死に至る言や文節を持っていて、それを掌握し詠唱するプロが詠唱騎士っていうのは前に話したよね?」
休めと言う雪男を無視して塾に出勤した私は、自分の担当教科の授業もしっかりこなした。騒ぎがあった後だが、生徒達も皆落ち着いており、怪我をした朴以外は全員が出席していた。
「では宿題に出した“詩篇第三十篇”を暗唱してもらいます。じゃあ出雲ちゃん言ってみようか?」
「はい!“…神よ我汝をあがめん。汝…我をおこして…我のこと……”」
出雲ちゃんは途中で止まってしまって動揺したのか言葉が出ないようだ。珍しいと思いながら大丈夫?と問えば、忘れましたと小さな声で呟いた。
「んじゃあ…勝呂。代わりに暗唱して。他の人も勝呂が読む所教科書で追って覚えてね。」
「“…神よ我汝をあがめん。汝我をおこして我が仇の我ことによりて…”」
すらすらと詰まりもせずに暗唱する勝呂に燐としえみは驚いて勝呂を見ていた。こいつら教科書追えって言ってるのに…
勝呂が一字も間違えずに読み終わると燐としえみは手を叩いて賞賛した。
「うん。いいね!完璧だったよ。燐としえみはこれ位で驚いてないで少しは努力しなさい!」
「「う、」」
チャイムが鳴り、今日はここまでと告げ片付けていると燐は教科書をブツブツと読み始め、しえみが勝呂に暗記のコツを聞いていた。黒板を消しながらくすくすと笑っていると、勝呂に出雲ちゃんが突っかかってきた。みんな私が居ることを忘れているのか居ないのか、場の空気が一気に凍る。
「暗記なんて学力と関係ないって言ったのよ…!」
「はぁ?四行も覚えられん奴に言われたないわ」
「あ…あたしは覚えられないんじゃない!覚えないのよ!!詠唱騎士なんて…詠唱中は無防備だから班にお守りしてもらわなきゃならないしただのお荷物じゃない!」
物は言いようだな…
黒板消しを置いて手についたチョークをはらうといよいよヒートアップしてきた2人が教卓の前までやってきた。
「あんたみたいな目立ちたがりやと違ってね…!」
「この……」
ギィーーギーギー!!
黒板に思い切り爪を立てると力強くゆっくり下げていく。不快な音に全員が耳を塞ぎ静まると唖然とした顔で此方を向く。
「いい加減にしいや?」
「「…………はい。」」
塾終了後。合宿に戻り、雪男と私は全員を並べて正座させると膝に囀石を置いていく。囀石は岩などに憑依し持つとどんどん重くなっていく悪魔だ。
「皆さん少しは反省しましたか。」
「な…なんで俺らまで…」
それぞれが険しい表情でぐったりしている。雪男は連帯責任だと言うと合宿の目的を話し始めた。この合宿は勿論学力強化という名目の試験だが、その中で塾生同士の交友を深めるというもう一つの目的があったのだ。
「そもそもあなた達問題起こし過ぎ!」
「こんな奴らと馴れ合いなんてゴメンよ…!」
出雲ちゃんの言葉で再び勝呂が口を出そうとする。
「慣れ合ってもらわなければ困る。祓魔師は1人では闘えない!お互いの特性を活かし欠点は補い、二人以上の班で闘うのが基本です。実践になれば戦闘中の仲間割れはこんな罰とは比べものにならない連帯責任を負わされる事になる。」
「…それに、責任で済めばいい方。下手したら死人がでる。それを一生背負って生きていくの。」
出雲ちゃんと勝呂は俯いた。
「……では僕と透子先生は今から三時間ほど小さな任務で外します。」
勿論嘘だが。今からいよいよ実践の試験が始まる。既に他の教員は待機していて、後は私達がこの場から離れるだけ。
「僕らが戻るまで三時間皆で仲良く頭を冷やしてください。」
二人で部屋から出て扉に耳をつけて中の様子を聞いていると、早速言い争いが始まっていた。呆れて溜め息を吐くと暗くなる前に行きましょうと雪男が声をかける。こんな状態で果たして試験は出来るのだろうか…
私達二人は廊下で待機し、部屋から出てきた者がいた場合後を追って評価する事になっていた。
寮全体の電気が消える。すると燐が1人部屋から飛び出し、その後を一匹の悪魔が追いかけていく。
「私は燐を追うから雪男は此処で待機して他に出てくる子がいるか見てて!」
「了解」
燐を追いかけて行くと設備専用室に入って行った。覗くと分電盤で電気をつけようとしている燐に悪魔が襲いかかっており、その内に隠れる。吹き飛ばされた燐は刀を抜いていないにも関わらずあの青い炎をだす。
「!?(以前見た時よりも炎が…!)」
「そうそうその炎が見たかったのだ。」
声が聞こえ、悪魔が大人しくなった。暗闇から現れたのは他でもないこの悪魔を使い魔とするネイガウス先生だった。
試験中は教員が生徒の前に出ることは禁止されているはず…!
ネイガウス先生は燐を逆撫でさせると、それに反応した燐が一層強い炎を出し、悪魔の頭を一突きすると耳障りな音と共に悪魔が炎に包まれていった。それと同時にネイガウス先生も闇に消えていった…
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