7夢
「ツナ、今日もしっかり勉強してこいよ」

「よく言うよ。勉強は全然教えてくれないくせに」

笑顔で見送るリボーンに、ツナは小さな声で毒を吐いた。

「いってきまーす」

鞄を肩にかけて家を出る。

いつもと違って時間に余裕があり、普段より少しスローペースで歩いていた。

どう言うわけか、いつもは周りなんて気にもしないのに、この日はしきりにキョロキョロとしていた。

彼の超直感が何かを告げていたのかもしれない。

そして見つけてしまった。

路地裏で、自らの血の海に沈んでいる少女を。

「んなあっ!?」

年頃はツナと同じくらいだろうか。

念のために口元に手を近づける。

随分と弱ってはいたが、確実に息はあった。

「ど、どうしよう」

「病院に連れて行きゃいいじゃねーか」

突然に聞こえてきた声。

そこにいたのは案の定、さっき別れたばかりのリボーンだった。

「病院に連れてくっていってもな……」

少女の腹には深々と包丁が突き刺さり、今もなお血が流れ続けている。

「この状況どー説明すんだよ!」

リボーンは呆れたように溜め息をつくと

「いい場所がある。ついてこい」

そう言い残して歩き始めた。

「おいリボーン!!」

歩き続ける彼に自分の声は届いていないと察したツナは、少女を背負ってリボーンの後を追った。

**********

「あ、ここって」

着いた場所、そこは中山外科医院。

数ヵ月前に色々とお世話になった廃病院だ。

「ここなら怪しまれずに看病できるぞ」

「なるほど。じゃないよ! 医者なしじゃ治療もできないだろ!」

「それなら心配ねーぞ」

ふと聞こえてきた、強く凛々しい声。

「ディーノさん!? どうしてここに?」

「ちょっと野暮用でな。それより、医者が必要なんだろ? ならロマーリオに任せておけ」

彼の後ろから現れたロマーリオを見て、ツナは安堵の息を付いた。

リボーンも安心したのか、少し表情が和らいだ。

「ツナ、お前は学校に行け。着替えも忘れんなよ」

「え?」

言われた意味が分からずに制服に視線を落とす。

「うわっ」

それは見事なまでに少女の血で赤く染まっていた。

**********

「今日遅かったけど、なんかあったのか?」

「ううん、ちょっと色々あっただけ」

最近リボーンのお陰か遅刻をしていなかったツナが珍しく遅刻をしたことで、心配する山本だったが、少女のことを話す気のない、いや、話したくないツナは、軽く笑って流した。

「色々って、面倒な事件ですか!?」

しかし軽く流そうとすれば決まって突っ込んでくるのが獄寺だ。そんな彼に、正直ツナはあきれていた。

「違うから!」

本心は、お前が一番面倒な奴だーっと思っているのをいえないでいるツナである。

「本当にそんなんじゃないから。じゃ、オレ用があるから先帰るね!」

獄寺や山本が一緒に帰ると言い出す前に、びゅんっと音が出そうな勢いでツナは学校を後にした。

向かう先は、家ではなくあの病院。

病院に着くと、ディーノはもちろんリボーンもいた。

「来たか、ツナ」

「ディーノさん、あのこの様子は?」

ここに来た理由は、もちろんあの少女が心配だったから。

「大量の出血で血圧の低下が激しい。それに、誰がやったのかは分からないが、的確に急所を突いてる。これで生きてるってのが奇跡なくらいだ」

「そんなに酷いなんて……一体何があったんだろう」

改めて少女の危険性を知る。

一体誰がこんなことをしたのか。誰にしても、許せない。

「ディーノ、こいつに回復の見込みはあるのか?」

やはり気になったのか、リボーンも質問を投げた。しかし、ディーノは黙り込んでしまった。

そんな彼の代わりに側にいたロマーリオが口を開いた。

「ゼロだ」

「え」

「こんな大怪我、普通ならとっくに死んでる状態だ。今生きてるって現状が奇跡なんだ。良くて植物状態、悪くて……死だ」

しばらくの間、重い沈黙が場を支配した。

誰もが言葉を失う。

それを壊したのは、誰もが予期せぬ来訪者だった。

「10代目!」

「ツナ!」

「獄寺君! 山本まで!?」

それは、獄寺と山本だった。

「どうしてここに?」

「10代目に話がありまして家に寄らせていただいたのですが、お母様にまだ帰られてないと言われまして」

「そしたら獄寺が、ツナはここにいるんじゃないかって言い出して、来てみたら本当にいたわけだ」

獄寺のツナ愛恐るべし。

「で、何スかそいつは?」

そしてついに、獄寺が少女に気づいてしまった。

「う……うん、実はね」

ツナは仕方なく、二人に事情を話した。

朝に少女を拾ったこと、そしてその少女が今、とても危険な状態に晒されていると言うことを。

「お、おい、マジかよ」

「どうして教えてくださらなかったのですか!」

この二人の反応は予想通りだった。

むしろ予想通り過ぎた。

予想外のない予想通りに思わずツナは頭を抱えてしまった。

この反応をされると、特に獄寺には対応が面倒なんだ。

だから話したくなかったんだ。

そんなツナを見て、リボーンが助け船を出した。

「ツナは、おめーらに心配かけたくなかったんだ」

「ですが……」

「ごめん! 獄寺君、山本。本当にごめん!」

ツナは二人に向かって深く頭を下げていた。

「悪いけど、やっぱり二人に迷惑はかけられない、かけたくないんだ。この子はオレがどーにかして見せるから、だから。だからお願い、見なかったことにしてほしい」

今日、ただ偶然にも見つけ助けただけの少女。

そんな彼女にでさえ、ツナは責任を感じていた。

もっと早く見つけてあげることができたら。もっとちゃんと治療させてあげられれば。

ツナのそんな思いは、その場にいた全員に伝わっていた。

「それはできません!」

だからこそ、獄寺はツナの言葉に逆らった。

「獄寺……君」

「一人で背負い(しょい)込むなよツナ。手伝えることがあればなんだってやるぜ。オレ達は仲間(ファミリー)なんだろ?」

「山本……」

目頭が熱くなって視界が歪む。

涙が零れる前に、再びツナは深く頭を下げた。

その時だった。

「うう…………」

狭い病室に、微かな呻き声が響いた。


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