18夢
突然現れた人物に誰もが驚くしかなかった。
ある者は知らぬ人物の登場に、ある者は見知った人物の登場に。

「ノイズキャンセルさん!?」

そこにいたのはどこからどう見ても姫の兄、ノイズキャンセルだったのだから。

「ノイズキャンセルじゃねえっ!」
「あだ名の否定は聞き飽きました」
「じゃなくて人違いだ!」
「えー……」

全力で否定する彼に、理沙はまじまじと彼を見た。
癖の強い茶髪、ホリの深めの顔立ち、黒い丸眼鏡。
これは、なんというか、どっちかというと……。

「ハリー・○ッターに似てる」
「言うなぁっ!」

実は本人的に気にしていたりする。

「ンなことより、こいつ助けたいんじゃなかったのか!?」

本題に戻そうとノイズキャンセル(?)が叫ぶと、全員が“そう言えばそうだった”という顔になった。
あまりの突然のギャグムードに忘れてたらしい。
果たして本気て心配しているのやらしていないのやら。

「できるんですか?」
「姫を助けられるの!?」
「オレに任せとけ」

鷹揚に頷くと、彼は姫の額に手を当てた。

「エマタリエカトヘリカヒ、ヨノモタレワラトニミヤ」

淡い光が姫を包んだかと思うと、泣き疲れた子供のように姫がゆっくりベッドに倒れこんだ。
大丈夫なのかと心配する面々の中、彼は姫の耳元に顔を近づけると、そっと囁いた。

「あー、なんだ。ベルフェゴールが(ごにょごにょ)」
「ベルがなんだって!?」

0.1秒での覚醒だった。
事情を知らぬ者はただただ唖然とし、理沙と隼菜は苦笑いするしかなかった。
姫のベル愛恐るべし。

「あれ、何でにいちゃんいんの?」
「ちげーっつうの!!」

同じことを言う妹であった。

「オレはお前の兄じゃない。俗に言う神様だ」
「「「家に帰れ残念すぎる痛い高校生」」」
「酷いっ!?」

3人のツッコミは神(?)に大ダメージを与えた!
神(?)は5000のダメージを受けた!
ライフが尽きた!!

「勝手に殺すな!」
「いやー、うん、最近君が壊れ始めてたのは知ってたけど、ついにここまで来たか。妹は悲しいぞ」
「いや、あの、だから、人違い……」

あまりにも哀れな目で見られたものでかなりいたたまれなくなってしまっていた。

「人違いって言ってもさ、顔も声もしゃべり方も同じじゃん」
「それには色々と事情がありまして……その……」
「あ、こいつ兄貴ちゃうわ」
「いきなり!?」
「だってあのクソ兄貴がここまでへこへこするわけねぇもん。あいつ自分主義者だもん」
「え、そこ!?」

確認場所のおかしい姫であった。
しかも思ったよりあっさり別人だと認めてしまったことでツナ達がまたもや固まっていた。
と言うか、完全にずっと蚊帳の外だった。

「とにかくココだと難だし、場所移すぞ」

そんなわけでようやく場所を移すことにした姫達は、安定の沢田家のツナの部屋にやってきたのだった。

「改めて言うが、オレはお前たちの言うところでの神だ。名は銀城神羅と言う」
「うわぁ、初めてちゃんと名前のあるやつ出てきた」

それはメタ発言なので禁句なのです。

「オレの仕事は人間の夢の世界の管理だ」
「夢の世界?」
「ああ。寝ている奴が見ている夢を監視して、現実と干渉することがないようにしているんだ」

神羅曰く、夢と現は干渉しない、してはいけない存在であるという。
夢の中では痛みを感じない、と言うのはそのせいなのだそうだ。
しかし干渉しないとは言え夢と現は表裏一体、管理をしていなければその存在は近づきいずれは干渉する恐れがないとも限らない。
そのために神羅が監視、管理をし、その調整を行っているのだ。
夢を見ない人というのは干渉力が強い可能性の高い故に強制的に見せないようにしている人だとか。

「けどある日、その夢の世界にバグが生じたんだ。そのバグはオレの力を凌駕し、ある奴の夢の世界を支配し始めた。夢を支配された奴は一定の夢しか見ることはできず、しかも現との干渉が始まってしまった」
「もしかして、そのバグが起こったのって……」
「私……?」

呟くような小さな声に、神羅は確かに頷いた。
日に日に増えていくリボーンの夢、なぜか感じ始めた痛み。それは全て、バグのせい……?

「バグは誰かの意思によって発生し、その目的に気づいオレはお前は生きたまま別世界へ逃すことを思いついた。そして、あの夢を通じてこの世界に連れてきたんだ」

あの夢、と言われて思い当たるのはたったひとつしかなかった。

「フランの夢だね」

問いかけると、確かに頷いた。
この世界に来てしまった三人に唯一共通するのがこのフランの夢なのだ。
安易に予想がついた。

「けど、その夢にさえバグは食いつき、邪魔しようとしてきた」
「ちょっと待って! それじゃあもしかしてなんだけど、そのバグの正体って…………お母さん?」
「「!?」」

その問いに対して神羅は、申し訳なさそうに目を伏せただけだった。
しかしそれを肯定と受け取るのには充分すぎた。

「奴はお前だけじゃなく、お前と仲が良かったやつも消そうとしていてな、理沙と隼菜の二人も慌ててこっちに連れてきたんだ」

彼女を怪しいと思っていたのは全員だ。
全員がそう思えたのは、本当に彼女が犯人だったから、なのだ。
そして神羅は続けた。
向こうの世界では、理沙と隼菜の2人も死んでいる、と。

しばらくの間、沈黙がその場を支配していた。
けれどそれは姫の笑い声によって破られた。

「まあまあまあ、あいつが何者で何を考えて私を殺そうとしてのか知ったことじゃないよ。私だってあいつを殺したかったのは山々だし、お互い様だね」
「姫はそれでいいの?」
「いいでしょ、別に。それより気になってるのが、なんで神羅はそこまでして私たちを生かしておいたのかということだよね」

ちらりと姫の視線が神羅を捉える。
確かにそうだ。
彼と姫の兄の姿が同じということが関係するにしろしないにしろ、別世界に逃がしてまで生き長らえさせたのには何かしらの訳があるはずなのだ。

「実は、今日はそれを言いに来たんだ」

それまでベッドに腰掛けていた神羅は、彼らと同じ床に座った。
正座をし、姫たちを正面から見つめる。

「頼む、あいつのことを止めてくれ!」

その眼には、一切の迷いはなかった。


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