17夢
「ん……あれ、ここは?」

彼女が目を覚ましたのは、学校の保健室だった。

呟いたその声に、そこにいたメンバー全員が反応した。

「琴音!」

「気がついた? どこか痛いところない?」

「え? うん、どこも痛くないけど」

万事オッケーです、とでも言いたげな顔を見て誰もがホッとした。

なにせあの雲雀恭弥と本気の戦いをしたのだ。

よくもまあここまで無傷で入られたものだ。

「それにしても、雲雀さんと戦うなんてどんだけ無茶してるんですか」

「そうそう。私たちがどんだけ心配したか」

理沙と隼菜がケラケラと笑う。

……が、当の本人である琴音は、キョトンとしていてた。

「何言ってるの?」

「ん、何が?」

「なんで、なんで“私”が雲雀さんと戦った、なんて言うの?」

一瞬の静寂。

誰もがはっきりと感じ取れる違和感。

今、彼女は“私”と言ったのか?

何がどうなっているのかさっぱりわからない。

しかしツナは、小さな予想を立てていた。

「もしかして“姫ちゃん”?」

「はい、なんでしょうツナ」

やっぱりそうだ。

その事には今のやり取りで理沙もすぐに気づいた。

そういうことか。

「ねえ姫ちゃん。起きる前のこと、覚えてる?」

「起きる前? うーんとね、リボーンの世界に来て、みんなで名前作って、美容院に行って……行っ……て……」

瞳が大きく揺れる。

そして

「うああぁぁぁぁぁああぁぁッ!! 来るな、来るなァッ!」

部屋中に響き渡る悲鳴。

がむしゃらに足掻くその手は、まるで何かを拒絶し追い払おうとするかのようだった。

「姫!」

「姫ちゃん!?」

なだめようとするツナだったが、無駄であると知らされた。

まさしくなす術なしの状態だった。

「シャマルを呼んでくる。それまでなるべく抑えとけ」

言うや否や、ツナが声をかける間も無くリボーンは保健室を去ってしまった。

残された面々は何度か姫の制止を試みるも、すべて無駄となってしまう。

困り果てた彼らの元にシャマルを連れたリボーンが戻ってきたのは10分経ってからだった。

錯乱する姫を見て、シャマルは苦虫を噛み潰したような顔になる。

「おいおい、こんな状態だなんて聞いてねーぞ」

「言ってねーからな。できるか?」

「当たり前だ。…………賭けに近いがな」

そう言うと、ポケットからカプセルを取り出した。

「錯乱状態ってことは極度の興奮状態ってことだ。つまり思考を止まらせれば収まる。が、」

「何、ですか?」

この病気(こいつ)は扱いが難しい。バランスを崩せば簡単にあの世行きだぜ。それでもやるか?」

「やります。やってください」

答えたのは理沙だった。

その目はずっと、姫のことを捉えていた。

「いいのか?」

「大丈夫だよ。だって、姫はタフだから」

無理やりな笑顔。

本当は不安だというのに信じたい気持ちがそうさせているのだと、隼菜は気づいていた。

だからこそ彼女もまた、笑顔で頷いた。

2人の覚悟を見届けたシャマルは持っていたカプセルを弾き、中から三叉の蚊(トライデントモスキート)が飛び出した。

「よろしくね、マイハニー

シャマルに応えるようにまっすぐ姫に向かって飛んでいく。

が、

パシッ

ポトッ……

暴れる姫の手によって叩き落とされた。

「「「「「………………」」」」」

訪れる静寂。

「あ、こりゃだめだわ」

「「「「「無責任!?」」」」」

使えないパターンでした、まる。

「どうすんのさ!」

「知らん。まあ頑張れ」

「はあ!?」

じゃ☆とウィンクを残してシャマルは去ってしまった。

さっきまでのシリアスモードは何処へやら、残されたのは微妙な空気だけだった。

「「あんのヤブ医者ーッ!!」」

なんて若干数名が叫んだのは言わずもがな。

しかしそんな茶番をさておいても姫が緊急事態なのには変わりない。

結果的にまた困り果ててしまった。

《しょうがねえな、オレがなんとかするよ》

そんな時、どこからともなく声が聞こえてきた。

聞こえてきた、というのは正しくないかもしれない。

正確に言うならば“響いて”きたのだ。

「だっ誰!?」

ツナの叫びに応えるように、彼らの目の前に突如として霧が現れた。

そこから現れたのは……




「ノイズキャンセルさん……?」


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