どんなに寝ようとしても目が覚めてしまう。
姫のことで頭がいっぱいだった。
部屋を抜け出して、武やお父さんを起こさないように家を出た。
ふらふらと、気づけば足が沢田家に向かっていた。
近づくに連れて、僅かに何かが聞こえていた。
聞いたことがある気がするけど、何だろう。
《大丈夫、心配しないで。無理して笑おうとしなくても、私に全てをさらけ出していいよ》
……これ、姫の好きな曲だ。
ネットで聞いてハマってから、いつも歌ってる。
屋根の上に人影が見えた。
「琴音、本当にあの曲好きだね」
「わっ、獄寺夫人いつの間に? それに、その呼び方……」
「この世界にいる以上、過去を振り返っても仕方ないじゃん? だったら素直に呼ぼうと思って。……って、だからその呼び方やめてよ!!」
「呼ばないでください。夜ですよ」
「うっ……」
けど、夫人も考えてたんだなぁ……。
過去にとらわれてる私がバカみたいだ。
「そうだね。そうだよね」
「理沙?」
「ううん。なんでもない」
姫は姫だ。
琴音は琴音だ。
うじうじ考えてたって何かが変わるわけじゃない。
何も変えられない。
だってら前を見なきゃ。
後ろを見ずにポジティブイズインフィニティ!
……ん?
なんかおかしいかな?
ま、いっか。
**********
油が弾ける音で目が覚めた。
眠い目をこすって台所に向かうと、見慣れない茶髪の女子が料理を作っていた。
ああ、そう言えば昨日からこいつがいるんだっけか。
双子の妹の隼菜。
あくまでもそう言う設定だから、どこも似てないなんて話は妥協だ。
「あ、おはよう隼人。ご飯もう少しでできるから」
「おう」
琴音が言ってたことは本当らしく、慣れた手つきで料理を終わらせると、皿に盛り付けてテーブルに運んだ。
全部任せるわけにもいかず、そのうち何個かは自分で運ぶことにした。
席について、一口入れる。
うまい。
第一印象はそれだった。
面倒だったから最近はずっとインスタントで済ませていたが、まぁ、これも悪くないかもしれない。
「隼人、顔が赤いよ?」
「なってねぇ!」
**********
「おはようございます10代目!」
「よっツナ」
「おはよう。獄寺君、山本」
「やっほー琴音」
「琴音おはよう」
「んー」
賑やかな朝だ。
いや、騒がしいって言った方があってるかな?
近所迷惑になっていないか心配だよ。
「て言うかリボーン。僕達の制服は? まさか私服で行って雲雀に咬み殺されろと?」
「学校に行けばもらえるぞ」
「そう、ならいい。それじゃあツナ、案内よろしく」
「うん」