残ったのは私と山本とディーノとロマーリオ。
帰らなくちゃいけない、ここにいてもどうしようもないってわかってるのに、帰りたくない。
姫のそばにいてあげたい。
「おい理沙」
「わかってるよ! だけど」
「隼菜だって帰ったんだ。お前のわがままだけ適応するわけにはいかねーぞ」
わかってるってば。
そんなの、私が一番わかってるんだ。
わかってるから悔しいんだ。
時計はもう19時を回ってる。
「ごめん……。帰るね、姫」
ごめんね。
そしてドアノブに手を掛けた時だった。
「んー……ふぁ」
「!?」
緊迫した空気に、間の抜けた声が通る。
反射的に振り返った。
「あれ? 寝てた?」
そこにいたのは、ザ・寝起き顔の姫。
「こ、琴音! 大丈夫なの!?」
「大丈夫かと聞かれたら大丈夫だけど、なんで僕は寝てたの?」
……ん?
気のせいかな、違和感を感じた。
「でもよかったよ姫。みんな心配してたんだよ」
「心配かけたのは申し訳ないけど、理沙。僕は姫じゃないよ」
……え?
また違和感。
「僕は姫じゃなくて琴音だ」
違和感。
「金輪際それで呼ばないで欲しい」
……何これ。
意味わからないんですけど。
確かに姫はよく一人称を変える癖があったよ。
ある日突然ころっと喋り方が変わる癖だってあったよ。
だけど、それでも、今まで『姫』を否定したことなんてなかった。
だって彼女は『姫』がお気に入りだったから。
ベルフェゴールに近づける『姫』を何より大事にしてたのに。
それなのに……。
ヒメガヒテイサレタ……?
「山本、私達も帰ろうか」
「ん、もういいのか? 話さなくって」
「いいの。コトネはゲンキみたいだから。それじゃ、ツナ、リボーンそれにディーノさん。サヨナラ」
何のためらいもなく部屋を出て、ツナの家を後にした。
急いでついて来た山本は、何も言わなかった。
言わないのか、言えないのかはわからないけど。
しばらく歩いたら、今朝も見た竹寿司に到着した。
今はなんだか入るのが気まずい。
「大丈夫か?」
「え?」
「いや、ずっと暗いからさ。緊張してんのか?」
「はい? いやいや、元から私は緊張なんて持ち合わせてないから。うん」
「んじゃ、行こうぜ」
山本が戸を開ける。
あー、お寿司の匂いだ。
って、当たり前か。
「おっ今朝のお嬢さんじゃねぇか! 忘れ物かい?」
山本のお父さん、元気だねー。
この人から元気を取ったら何が残るかなー?
って、そこは関係ない。
「親父! 今日からこいつも家に住まわせてもいいか?」
「なんだ武、彼女か?」
「いえ、そうではなくてですねっ」
事情説明中。
異世界から来たと言うことを別の街から来たと言うことに変えて、あとは全部話した。
10分くらいかけてようやくリボーンたちとの話し合いの件に入ることができた。
「そんなわけで、オレの姉ちゃんってことでさ」
「ダメ……でしょうか?」
恐る恐る聞いてみる。
「嬢ちゃん、名前は?」
「えっ。あ、理沙です」
「なら今日から山本理沙だな!」
「それって」
「困ってる奴を見捨てるもんか」
「あ、ありがとうございます!」
夕食は、山本のお父さんが「祝いだから寿司だ!」なんて言って、普段は食べられない高級品まで食べることができた。
……漫画でのあのノリ、本物なんだね。
恐ろしや。