12夢
隼菜は帰ってしまった。

残ったのは私と山本とディーノとロマーリオ。

帰らなくちゃいけない、ここにいてもどうしようもないってわかってるのに、帰りたくない。

姫のそばにいてあげたい。

「おい理沙」

「わかってるよ! だけど」

「隼菜だって帰ったんだ。お前のわがままだけ適応するわけにはいかねーぞ」

わかってるってば。

そんなの、私が一番わかってるんだ。

わかってるから悔しいんだ。

時計はもう19時を回ってる。

「ごめん……。帰るね、姫」

ごめんね。

そしてドアノブに手を掛けた時だった。

「んー……ふぁ」

「!?」

緊迫した空気に、間の抜けた声が通る。

反射的に振り返った。

「あれ? 寝てた?」

そこにいたのは、ザ・寝起き顔の姫。

「こ、琴音! 大丈夫なの!?」

「大丈夫かと聞かれたら大丈夫だけど、なんで僕は寝てたの?」

……ん?

気のせいかな、違和感を感じた。

「でもよかったよ姫。みんな心配してたんだよ」

「心配かけたのは申し訳ないけど、理沙。僕は姫じゃないよ」

……え?

また違和感。

「僕は姫じゃなくて琴音だ」

違和感。

「金輪際それで呼ばないで欲しい」

……何これ。

意味わからないんですけど。

確かに姫はよく一人称を変える癖があったよ。

ある日突然ころっと喋り方が変わる癖だってあったよ。

だけど、それでも、今まで『姫』を否定したことなんてなかった。

だって彼女は『姫』がお気に入りだったから。

ベルフェゴールに近づける『姫』を何より大事にしてたのに。

それなのに……。

ヒメガヒテイサレタ……?

「山本、私達も帰ろうか」

「ん、もういいのか? 話さなくって」

「いいの。コトネはゲンキみたいだから。それじゃ、ツナ、リボーンそれにディーノさん。サヨナラ」

何のためらいもなく部屋を出て、ツナの家を後にした。

急いでついて来た山本は、何も言わなかった。

言わないのか、言えないのかはわからないけど。

しばらく歩いたら、今朝も見た竹寿司に到着した。

今はなんだか入るのが気まずい。

「大丈夫か?」

「え?」

「いや、ずっと暗いからさ。緊張してんのか?」

「はい? いやいや、元から私は緊張なんて持ち合わせてないから。うん」

「んじゃ、行こうぜ」

山本が戸を開ける。

あー、お寿司の匂いだ。

って、当たり前か。

「おっ今朝のお嬢さんじゃねぇか! 忘れ物かい?」

山本のお父さん、元気だねー。

この人から元気を取ったら何が残るかなー?

って、そこは関係ない。

「親父! 今日からこいつも家に住まわせてもいいか?」

「なんだ武、彼女か?」

「いえ、そうではなくてですねっ」

事情説明中。

異世界から来たと言うことを別の街から来たと言うことに変えて、あとは全部話した。

10分くらいかけてようやくリボーンたちとの話し合いの件に入ることができた。

「そんなわけで、オレの姉ちゃんってことでさ」

「ダメ……でしょうか?」

恐る恐る聞いてみる。

「嬢ちゃん、名前は?」

「えっ。あ、理沙です」

「なら今日から山本理沙だな!」

「それって」

「困ってる奴を見捨てるもんか」

「あ、ありがとうございます!」

夕食は、山本のお父さんが「祝いだから寿司だ!」なんて言って、普段は食べられない高級品まで食べることができた。

……漫画でのあのノリ、本物なんだね。

恐ろしや。


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