11夢
「はあーあ、なんか家が広いな」

「そりゃだって、あいついなくなったし」

「それってつまり、この家の大半はあいつが占めてたってこと?」

「まあ、そうなるんじゃねえの?」

「ふーん。変なの」

「何が」

「だってオレらさ、あいつのこと散々腫れ物扱いして、いなくなって清々してるわけじゃん。なのに家が広く感じてるってことは、いなくなって寂しいってそう思ってることだろ?」

「確かに……そうかもしんないけどさ」

「あれ、母さんでかけんの?」

「まあね」

「また仕事?」

「んーん。ちょっとした野暮用。帰りは明日になるかもしれないけどね」

「ちょっ、夕飯は!?」

「自分たちで作りなさいよ。高校生でしょ?」

「あ、行っちゃった」

「父さんも仕事で帰り遅いんだよな?」

「つーか今まで家事ってあいつの仕事だったからオレら無理じゃね?」

「……あ、やば」

**********

「姫遅いなぁ〜」

姫が出かけてから1時間弱。

みんなで喋ってたから気づかなかったけど、それくらい経っていた。

だけど姫は帰ってこない。

「混んでるんじゃない?」

「まあ、それもあるか」

静かにお茶をすする。

ガチャッ

「お、噂をすれば」

私と夫人……じゃなくて隼菜とツナで玄関に向かう。

「おかえりひ「なんで」……ん?」

「何であいつがいるんだよ!!」

そう叫ぶと、姫は突然倒れこんだ。

何とかツナが抱き支えたけど……。

「ちょっと姫? ねぇ、どうしたの!?」

「姫!?」

「気を失ってるみたいだけど」

「おい、どーした?」

私達の声を聞いてリボーン達が駆けつける。

「どうしようリボーン、姫が……姫が!!」

「落ち着け理沙。何があった」

パニックでどうしようもなくなった私に代わってツナが説明をした。

と言っても私達だって何があったのかわからないし、むしろ説明して欲しい。

リボーンが顔を強張らせたのがわかった。

「獄寺、山本。琴音を部屋に運んでおけ。オレはディーノとロマーリオに連絡を取って来る」

「わかりました」

「任せとけ」

「隼菜と理沙、ツナはちゃんと琴音の側についていてやれ」

「う、うん」

「わかった」

買い物で奈々さんのいない沢田家は、一気に騒がしくなった。

**********

「盛られたな」

「盛られたって……え!?」

ロマーリオの言葉を理解するのには、時間はかからなかった。

私達の目の前に寝かされている姫は、ピクリとも動かない。

正直、息してるのかさえ怪しい。

「この嬢ちゃん、間違いなく命狙われてるぜ」

「そんな、誰に」

「1人しかいないよ」

ツナの声を遮ったのはどSちゃん……ううん、理沙。

「姫のお母さんだ。そうとしか考えられない」

その声は、普段の彼女からは想像もできない位低く、殺意に満ちていた。

こんなに怒った理沙を見るのは初めてだ。

「琴音の母親って何者なんだ?」

「わからない。どう見ても普通の人だけど、だけど、姫が死んで喜ぶのは確かだよ」

私の頭に思い浮かぶのは、最後に会った姫のお母さんの顔。

笑顔だった。

自分の娘が死んだと言うのに。

「私ね、ここに来て元気な姫に会えて、すごく嬉しかった。だって、向こうの世界じゃ姫、死んでるんだよ……バラバラで発見されたんだよっ」

「バラバラ!?」

「そうだよ! 姫は現実で殺されて、夢の中でも殺されかけて、またここで死にそうになってる! 私は、絶対に許さない」

「理沙……」

確か理沙は、私と違って姫とは幼稚園の頃からの付き合いのはず。

だからきっと、姫をこんな目に遭わせた犯人を許せないんだと思う。

それに対して私は?

ただ見てるだけだ。

ただ祈ってるだけだ。

姫が行方不明になってその死を軽々しく口にした私に、親友を名乗る資格があるんだろうか。

「外、真っ暗だね」

誰かが呟く。

それに反応したのは獄寺だった。

「隼菜、帰るぞ」

「え、でも」

「オレ達がここにいたところで何もできねぇんだ。少なくともリボーンさんや10代目、跳ね馬がここにいる今はな。それにお前、入居者届け出さなきゃだろうが」

「……うん、そうだね」

心残りだけど、帰るしかない。

悔しいけど、獄寺の言う通りだから。

「ではリボーンさん、10代目。お邪魔しました」

「理沙、バイバイ」

重い足取りで、私はツナの家を後にした。

とぼとぼと歩く帰り道。

今日初めて出会ったからか、それともまた別の理由か、私達の間に会話はなかった。

それが余計に私の気を重くさせた。

「おい、いつまで泣いてんだよ」

「別にっ泣いてなんか……」

いや、泣いてる。

それは滲む世界が主張していた。

濡れる手が主張していた。

「だって……姫が、死んじゃうかもしれないのに、私、何もできなくて」

「隼菜」

強く呼ばれて肩を震わせる。

顔を上げると、立ち止まった獄寺がじっと私を見ていた。

「お前、あいつと友達なんだろ? だったらなんで死ぬとか口にできんだよ。なんで信じられねえんだよ」

その言葉にはっとした。

『私達が信じなくて誰が信じるの?』

蘇る言葉。

それは姫が行方不明になった時ネガティブになった私を怒鳴った時の理沙の……どSちゃんの言葉。

そうだよね。

私が、私達が信じなくちゃね。

なんでこんな当たり前のことで2回も怒られてんだろ。

姫は絶対に大丈夫。

「ありがとう獄寺」

「ケッ。お前も獄寺だろ」

「あ……。そうだね。ありがとう隼人」

「……早く帰るぞ」

姫、必ず元気になってね。

明日会えるのを楽しみに待ってるから。


prev next

bkm


bkm
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -