#2. What is believed, and the thing to bar




知らない場所、知らない風景。

ここは一体どこなんだろう。

どうして私はこんなところにいるんだろう。

ぼうっとして働かない頭を必死に働かせる。

無理矢理にでも目を覚まそうと、近くに見つけた泉まで這っていく。

水面に映っていたのは、銀色の髪に翡翠色の瞳。

それは間違いなく私だった。

冷たい水が肌に触れると、幾分か頭がはっきりしてきた。

今がわからないと言うのなら、“今まで”をはっきりさせよう。

私の名は、朝風冬菜。

朝風家の一人娘として12月25日に生を受けた。

けれど、この容姿のせいで家族を失うことになった。

そしてついこの間、意識を失う前、白い仮面の何かに襲われたことにより、

そうか、そう言うことだったのか。

私は、2年という短すぎる人生の幕を降ろしたんだ。

つまりここは、死後の世界ということ。

死後の世界はこんなにも広いのか。

こんなにも綺麗なのか。

私が今いる草原も泉も、鮮やかに澄み渡っている。

それでも、それなのに……私には行き場がないのだ。

泉のほとりにしゃがみこむ。

風が吹くたびに揺れる水面を、ただ無心に見つめていた。

「冬獅郎?」

誰かの声が聞こえる。

でも、私じゃない。

私はそんな名前じゃない。

「あんた、冬獅郎じゃないかい?」

それでも声は、私に向かって言ってくる。

振り向いたそこにいたのは、一人のおばあさんだった。


* * * * * 


古びてはいるけれど、しっかりした家。

私が連れてこられたのは、そんな場所だった。

「そうかい。冬菜ちゃんと言うのかい」

さっきのおばあさんは、ここに住んでいるらしい。

そして私は、数えるのを忘れるほど昔に共に住んでいた「冬獅郎」という少年によく似ていると言う。

「冬菜ちゃん、お腹すいたかい?」

「え、あの」

うまく言葉がでない。

長きに渡って人と触れ合わなかったせいだろうか。

私には、コミュニケーション能力とやらが皆無のようだ。

しかしその分、体は正直らしい。

お腹から、ぐぅーと言う音が主張を始めた。

それを聞いたおばあさんは、にこりと微笑んだ。

数分して出されたのは、“普通の”食事だった。

かつて私が延命しか目的を持たずに食べていた雑草なんかじゃなく。

お米に卵に鮮やかな野菜たち。

一口食べるだけで、幸せが身体一杯に広がった。

「……おばあ、さん、ぅわ、だべな、いぉ?」

今、人生で初めて長文を話したと思う。

そして、人間として最低レベルの会話だと思う。

それでも私は、私の食事を見ているだけのおばあさんが気になってしまった。

不快とかではなくて、単純な疑問として。

「ばあちゃんはお腹がすかないからねぇ」

「ど、して?」

「ここに住む人たちは、皆そうだよ」

ここに住む人たち。

この家に来る間には沢山の家があった。

畑もあった。

お店もあった。

だけど、人は誰もいなかった。

いや、物陰から私を忌み嫌うような目で見ていた人たち以外、誰もいない。

おばあさんが言った言葉を、容量も経験もない頭で考えながら、食事を口に運ぶ。

それすら終えてしまったとき、おばあさんは口を開いた。

「冬菜ちゃんが死んでしまったのは、最近かい?」

唐突な質問だった。

私はこくりと頷く。

「いくつ?」

私はピースを作った。

これが2を表す行動だと、“彼”が教えてくれた。

寂しげに細められたおばあさんの目。

私にその真意はわからない。

そしておばあさんは続けた。

「それじゃあ、“この世界”のこと、知らないね」

「この、世界?」

「魂が住む、尸魂界(ソウル・ソサエティ)について」




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