7、宝とは何なのか?





恥ずかしい思いをしたのはさて置いて、家に上がって部屋に入ると、身に覚えのない段ボールの山が積まれていた。

いつの間に来たんだ、なんてツッコミを入れたくなるが、聞かなくたって分かる、銀が持ち込んだに違いないんだろう。

オレは段ボール箱を閉じているガムテープに手をかけると、綺麗とかお構いなしに破った。

そして、次々とその中身を床に散らしていく。

何着かのメンズの洋服に並中の制服に学生書、その他諸々これから生活していくにあたって必要になるであろうものが殆ど揃えてあった。

だからこそ、その存在が一段と異物のように感じた。

「…………なんで、これ」

そこにあったのは、黒い革地に、サファイアを模した青い石が埋め込まれているロザリオの付いたチョーカー。

本来ならここにあるべきでないものに違いはなかった。

このチョーカーは、前世での唯一無二の親友からもらった唯一のプレゼントだ。

だが、この世界ではあいつと会うことはなかった。

だからここにあるはずなんてなかった。

「それ、オレが頼んでおいた」

「は?」

突然に口を開いた銀。

「本当はな、前世のものを持ち込むことは禁止なんだが、オレが上に掛け合って許可してもらったんだ。大切なもんなんだろ?」

「ああ。サンキュな」

オレと“あいつ”を結ぶ、オレと“あいつ”の絆があったことを示すたった一つのアクセサリー。

大事な大事な宝物だ。

前世でだって肌身離さず身につけ、どんな時も手放さなかったくらい大切な宝物だ。

俺が死ぬこととなった、あの事故の日でさえも。

「宝って何なんだろうな」

不意に、そんな言葉が聞こえた。

銀を見ると、彼はオレのチョーカーを見つめたまま悲しそうな表情を浮かべていた。

「オレにも、そんな存在がいたような気がするけど、ずっとずっと昔のことだから何も覚えてないし思い出すこともできない」

「……銀?」

「あっ……いや、なんでもない。気にすんな!」

そう明るく言ってくるが、なんだか今の一瞬、銀の中の何か闇を見てしまった気がしていた。

宝とは一体何なのだろうか。

たとえどんな物でも、言ってしまえば形ある物でも、形のないものでも宝になることはできると思う。

このチョーカーだってそうだし、言うなれば思い出だって宝だ。

そこまで来て不意に、哲学じみた考えに走りそうになっていることに気づいた。

「ガラじゃねぇよ」

軽く頭を振って、チョーカーを首に取り付けた。

窓から差し込んだ夕日の赤い光が、碧い石を照らし、綺麗に反射していた。




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