1、死は突然にやってくる




日本国内にある、端っこの県の端っこの都市。

そんな辺鄙な土地もいいところにあるのは世界でもトップクラスの難関大学、西条考古学院だ。

つい先日、ここでは期末試験があり、その成績と順位が大きく張り出されていた。

それを何も言わずにじっと静かに見つめるのは、エメラルドグリーン色の髪を持つ一人の少年、否、少女。

視線の先にあるのは、『1位 霜月要』と書かれた文字。

少女は、何も言わず、ただただ悲しげにそれを見つめていた。

「おい、霜月」

ふと呼ばれてちらりとそちらを見る。

視界に入った声の主は、彼女より遥かに身長の高い一人の男子(いや、男性といった方が正しいだろう)。

彼は明らかに少女を忌み嫌うような、そして軽蔑するような目をしていた。

恐れと、軽蔑と、憎しみの込められた声で彼は言った。

「死神のくせに1位たァ生意気なんじゃねェのか?」

さりげなく、しかし強調された“死神”という言葉に少女はピクリと反応する。

そんな少女の異変に気づかないままに彼は続けた。

「そもそも、てめェみたいなチビがこんなところにいること自体間違ってんだよ」

“チビ”に、さらに反応する。

気づけば、彼女のこめかみに青筋が走っている。

そしてついに少女は、つり目がちなその目で、彼のことを睨んだ。

エメラルドグリーンの髪の間から見え隠れする瞳は、とても澄んだ緑色をしている。

その目に睨まれた男性は、背筋が凍るような錯覚に陥った。

「くっ。やっぱりてめェは氷の死神だな!」

誰がどう見ても明らかな敗北者の目をしてそう叫ぶと、彼は廊下の奥へと走り去った。

残された少女は、悔しげに唇を噛み締め、拳を強く握りしめていた。

少女の名は、霜月要。

髪の色は、エメラルドグリーン。

瞳は、澄んだ緑色。

そんな少女のあだ名は、氷の死神。

世界一の天才と呼ばれた少女のその齢は――――

13。




†‡†‡†‡†‡†‡




帰り道。

寮暮らしのオレは、独りうるさい町中を歩いていた。

何もかもが不快だった。

史上最年少で難問大学である西条考古学院に入学したまではよかったが、逆にそれが恨まれる種となった。

「はぁ……晩飯何にしよう……」

そんなことを考えながら鞄の中から一冊のマンガを取り出す。

家庭教師ヒットマンREBORN !

オレのお気に入りの逸品だ。

ま、出会うのが遅すぎて、はまった頃にはもうアニメが終わってたのは泣けたな。

青になった信号を確認して、横断歩道に出たときだった。

『危ない!』

そんな声が聞こえた気がした。

オレの目の前に迫るのは、信号無視をしたトラック。

逃げなきゃ。

そう思うのに体が動いてくれない。

金縛り。

真っ先に浮かんだワードはそれだった。

嫌々、嘘だろ。

白昼堂々道路のど真ん中で金縛りだなんて、洒落にもほどがある。

それでも、オレは動くことができなかった。

そして

ドンッ

鈍い衝撃と、肋骨が何本か折れる音、込み上げる鉄の味がオレを襲った。

視界がぐるぐると回る。

ふと思い出したのは、幼い頃に失った両親の顔。

あ、オレ死ぬんだ。

情けねぇなぁ……信号無視をしたトラックに跳ねられて死ぬなんてさ。

力が入らずに地面に投げ出された腕に生暖かいものが触り、それが血だと理解したとき、死と言うものを初めて実感した。

でもこれで、父さんや母さんに会える……。

ああ、安心したら眠くなってきやがった。

さようなら、オレの短い人生。

唯一つの心配事は、リボーンが血で汚れていないかだった。




†‡†‡†‡†‡†‡




『起きろ』

誰かが呼んでる。

でも知らない声だ。

それに、起きたくない。

このままずっと眠っていたい。

「起きて〜」

ぷにゅ

「にゃにゃにゃにゃにゃ?!?!?!」

突然ほっぺたをつつかれ、自分でも驚くほどあり得ない声が出た。

顔を真っ赤にして犯人の顔を睨み付ける。

「ワォ」

そこにいたのはイケメンだった。

雲雀と瓜二つの容姿を持っていて、違うのは髪が銀色であること、糸目であること、わずかな隙間から見える瞳の色は深紅色であること。

「え〜と……どちら様?」

「よくぞ聞いてくれた! オレの名前は銀。俗に言う神様だ」

「イタイ子は家に帰れ」

「酷いっ」

何なんだよ、突然現れて『神様だ』?

あー……とうとうオレの頭もやられてきたか?

こんな非現実も甚だしいやつがいるとは思わなかった……。

「まいいや。えと、銀、だっけ? ここは何だ? オレは死んだんじゃなかったっけ?」

「うん、まあそうなんだけどね、ちょっとした手違いがあったもんでね」

質問するや否や、オレの前に正座で座ってきた銀。

そしてなんだか申し上 げにくそう。

「実は、お前が死んだの、俺たち神様がミスったせいなんだ!」




†‡†‡†‡†‡†‡




え? 今の状況説明すんの?

チッ、めんどくせーの。

オレの目の前には、フルボッコされた状態の神様(仮)の銀が、オレに向かって土下座をしている 。

「んで、理由は?」

「うん、あの、えっと……。オレ達神様の中でも役職ってのがあって な」

ガタガタ震えながら説明が始まった。

つまりはこうだ。

人間の生死を司る神が仕事を サボり、さらに大事な書類をグシャグシャにしてしまった。

んで、その書類がオレ関連のもので、あってはいけない事故が起こってしまった。

と言うことで、人間の死後を司る銀こいつがその処理を任された、って訳らしい。

因みに、その神様は職務怠慢で処罰待ち。

「んだそりゃ。つまりはお前らの都合ってことか?」

「そーゆーコトです。まじスンマセ ン」

オレは思わず盛大な溜め息を吐いて、頭をガシガシと掻いた。

「まあ、そう言うことで転生したい世界を選んで」

「は?」

今こいつ何て言った?

転生?

「オレ達の掟で、『神の責任により天寿を全うできなかった者について、転生を許可する』てのがあるんだ」

なるほどね。

それで行き先を選べって訳か 。

「因みに、行ける範囲は?」

「現世に存在する小説・漫画・アニメはもちろん、映画やゲームの世界も可能だし、まぁこんな奴は滅多にいないが、VOCALOIDの世界にだって行ける」

「なるほどな」

「因みに、一度選んだらそこで一生を過ごしてもらう。次はもう、もし手違いで死んでも転生はできない」

つまりは慎重に選べってことだよな。

オレの記憶の引き出しを漁る。

ジャンプ作品は一通り読み漁ってるし、最近始まった『暗殺教室』も気になる。

アニメでも、幼い頃によく見ていた『セーラームーン』とかもあるしな。

けどやっぱり……

「『家庭教師ヒットマンREBORN !』で頼む」

リボーンだよな。

「わかった。で、特殊能力の付加は? 今なら、他の作品の能力選り取りみどりだけど?」

「いや、良いや。能力(そんなもん)在ったら頼りっきりになりそうでこえーし。ただまあ、身体能力は一般人よりちょい高めにしてほしいかな」

今だから言うが、オレは極度の運動音痴。

しかも沢田の右に出れるかもしれないレベルだ。

だからこそ、なんだがな。

「よし分かった」

銀は、メモ帳らしきものにさっと書き込む。

「悪いが、赤ん坊からやり直してもらうぜ。これも転生者の掟なんだ」

「……別に構わないぜ。変なことしなきゃな」

「あ、そうだ。『このキャラと仲良くなりたいから、幼馴染みになりたい』とか『このキャラと近くに住みたい』とかの要望があったら聞くけど」

「いや、特にないが」

ま、“あいつ”だったらやりそうだけどな。

って、何でこのタイミングで“あいつ”を思い出すんだよ。

「オッケー。んじゃ、前世と限りなく近い人生送ってもらうから」

「はぁ!? なんだよそれ、ふざけんなよ!」

「生きてく上での抵抗は認められてるから安心しろ。まあ尤も、原作に介入するまで記憶は消すけどな」

ふざけんなよ!

また同じ人生を送れって言うのか!?

また大切な人を失う人生を送れって言うのか!?

そんなの真っ平ごめんだ!

「だからさ、抵抗は認められてるからって言ってるじゃん。実際、抵抗の成功率は95%なんだから」

「っっ!!」

「だからさ、今度こそ人生を全うしてみなよ。大切な人を守れる人生にしてみなよ」

と、銀はにっこりと笑った。

「要ならできるよ」

その表情は、誰かに似ている気がした。

誰だろう、思い出せない。

何だか、とても大切で、とても大好きだった人のような……。

「行ってらっしゃい」

気付けば、オレの視界は黒で塗りつぶされていた。



†‡†‡†‡†‡†‡



暗い……

オレは……どうしたんだっけ?

極度の眠気が頭を働かせなくする。

どこか、とても安らぐところにふわふわ浮いている感じだった。

と、遠くの方に小さな光が見えた。

自然と体が 光そこへと引き寄せられていく。

だんだんと光が大きくなってきて――――

『私』は生まれた。

「オギャアオギャア」

「おめでとうございます。可愛らしい元気な女の子ですよ」

「名前はどうしようか」

「名前……。そうね、みんなに『必要』としてもらえるような子に育ってほしいから、要」

「要か。いいね。要、霜月家の長女にふさわしい、立派な子に育ってね」




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