番外8、ディーノと遭う!
いやあしばらく日本から離れてると四季が恋しくなるね。
え、いやほら、今は日本だと秋を堪能できる季節かなあ、なんて思ってさ。
それで私が今どこにいるかって?
……どこだろうね。
散歩、とか思って森の中を歩いてたんだけど迷子になったみたいだ。
ヴァリアー隊服着てるしバレたらまずい気もするけど、大丈夫、だよね?
ほら、デザインも色々と変えてもらってるからパッと見だとヴァリアーってわからないだろうし、フードかぶってるから私だってことも分からないはず。
それにしてもお腹すいてきたな……。
朝ごはん食べたっきりだし、ヴァリアーにいるとお菓子も食べられないし……と言うよりサボって抜け出したからここにいるわけだし。
「もう、無理」
結局、空腹には勝てないままに意識を手放した。
†‡†‡†‡†‡†‡
数十分後。
フィリミオが倒れている近くに金髪の青年と黒髪の男が現れた。
「ロマーリオ、本当にこの辺なのか?」
「ああ、確かだぜ」
ロマーリオと呼ばれた男が頷く。
そう時間をかけないうちに彼らは、黒服に身を包んだ少女を発見した。
拒絶するかのように深くフードをかぶっているせいで顔は見えないが、エメラルドグリーンの髪がはみ出ている。
「おい、大丈夫か?」
「気を失ってるみてえだな。とにかく連れて帰るか」
「そうだな」
金髪の青年がフィリミオを背負い、2人はその場を去った。
†‡†‡†‡†‡†‡
目を覚ますと知らない場所だった。
こんな展開は一体これで何度目になるんだろう。
どうして寝ていたのかを不思議に思い、空腹で倒れたことを思い出して飛び起きた。
誰かの部屋、お屋敷。
パッと見てわかるのはそれだけだった。
「よう、起きたか」
「!?」
唐突に声をかけられて思わず肩がびくつく。
声がした方に目を向けると、金髪の青年が立っていた。
寝ている間でも外れなかったらしいフードをさらに深く被る。
「そう警戒すんなよ。オレはディーノだ。森の中でお前が倒れてるのを見つけたんで連れてきた」
「……ふうん」
「随分とそっけない態度だな。とりあえずこれでも食っとけ。腹減ってんだろ?」
ベッド脇のテーブルにトレイが置かれる。
簡素な食事がそこに乗っていた。
食べたい。
手を伸ばしそうになる衝動をすんでのところで抑え込んだ。
ディーノという名前はよく知っている。
ボンゴレの同盟・キャバッローネファミリーの10代目ボスである跳ね馬ディーノと言えば裏に関わる人間なら誰でも聞いたことのある名だ。
そんな彼はリボーンの一番弟子であり、つまり、沢田側の人間。
そしてそれはもちろん、フィリミオの敵。
冷静に考えればフィリミオという存在を知らないであろうディーノに対してここまで警戒する必要はないし、彼からしたらただの好意からの介抱なのだが、リボーンの存在を警戒するあまりにフィリミオは神経質になっていた。
何より、フィリミオはかつて『霜月要』としてディーノと接触した事がある。
下手をすれば同一人物だと悟られかねない事態でもあった。
「食わねえのか?」
「別に空腹とかそんなんじゃない」
強気に答えてみるが、事実であり、体は正直にSOSを出してしまった。
フードに隠れた顔が一気に恥じらいに染まる。
ディーノが口を開く前に食器を手に取り、恥ずかしさを隠すように一気にかき込んだ。
「で、お前には幾つか聞きてえことがある。まずお前が何者かってことだ」
食べ終えるのを待って、質問が投げかけられる。
「……誰だっていいでしょ。関係のない話だ」
「そうもいかねえぜ。お前、ヴァリアーだな?」
心臓がどきりとした。
なぜ、ばれていた?
「その服、確かにオレの知ってるやつとはかなりデザインが違うが、ジャケットの肩にヴァリアーの紋章が入ってる」
ハッとしてジャケットを確認する。
左肩に刻まれたエンブレムのことをすっかり忘れていた。
ルッスーリアにも、これだけは変えられないと言われていたのを思い出して頭を抱えそうになった。
バレバレじゃないか、それなのにこんな格好でふらふらと。
せめて着替えてくればよかったと後悔したところで後の祭りだ。
言い逃れはできやしないと確信した。
「ご名答。きっといつかまた会うことになるだろうから教えてあげるよ。私の名はフィリミオ。日本に拠点を置くファミリーの初代ボスであり、復讐者の一員。今はヴァリアーに強制入隊させられてるのさ」
ディーノの表情が驚愕に染まる。
「復讐者、だと……!?」
「正確にはいいようにこき使われてるだけ。ヴァリアーにも教えてないとっておき情報を聞けただけいいと思いな」
「……そうか…」
目を伏せて考え込むように黙ってしまうディーノ。
そんな彼のことをフィリミオは訝しげに見つめていた。
何を考えている。
私のことをリボーンに話す気だろうか。
私は名乗った、下手をすればそのままリボーンの持つ情報と照らし合わせて骸との繋がりも見出されてしまう。
警戒ばかりするフィリミオの思惑とは裏腹に、実際ディーノは全く違うことについて考え込んでしまった。
まず第一に、彼女が復讐者であること。
謎に包まれた、掟の番人とされる不気味な組織にこんな少女が本当に属しているのだろうか。
そしてもう1つ。
目の前の少女が、ファミリーのボスを務めていると言うこと。
見たところまだ子供で、おそらくは、知り合いである沢田綱吉と同じ年頃。
確かにツナも今はボンゴレの10代目候補ではあるがそれは血筋の問題がある。
だが、初代となれば、それはこの少女が創設したということ。
「なあ、お前さ」
「何?」
「オレの弟弟子と友達にならねえか?」
「断固拒否」
ほぼ即答。
名前は出さなかったが、簡単に言えばツナと友達に、という事だ。
受け入れるはずがない。
「悪いけど、別にボンゴレと仲良くしようとか少しも思ってないから。ヴァリアーにいるのも勝手に入れられたから。そこんところ勘違いするな」
澄んだ緑色の瞳で一瞥する。
その冷たい瞳にディーノは動く事を忘れてしまった。
「それじゃあさよなら。ご飯のお礼だけは言っておくよ」
即座に手元に闇の炎が生み出され、フィリミオはその中に飛び込んでしまった。
気づいた時にはそこにはもう何もない。
残されたのは、呆然としてしまったディーノの姿だけだった。
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