77、これが本当の神頼み




「ねぇお願い要、あなたの中に私はいるの!?」

祈るように、すがるように絞り出された彩加の言葉。

それを聞いた要は拳を強く握り唇を噛み締めていた。

「オレの中にお前がいるか、だと? ふざけるな! お前は今まで何を見てきたんだ! このチョーカーだって銀に渡されてから一度も外したことなんかねえ! お前とあったあの日も、今も! それでよく忘れられたみたいな言葉吐けるな!」

要の怒号が部屋に響く。

彩加は、ハッと息を呑んだ。

怒る要の胸元、不良気質のある要のボタンの開けられたワイシャツの向こう、そこに紛れもない親友の証があった。

どうして見えていなかったんだろう。

どうして気づかなかったんだろう。

自分に問いかけて、即座に否定した。

見ようとしていなかっただけだ。

気づこうとしていなかっただけだ。

忘れられているかもしれない、そんな自分の妄想に取り付かれていたから。

「わ、私、私……っ」

ごめんなさい。

信じてあげられなくてごめんなさい。

そう伝えたいのに言葉は出なくて、代わりに涙だけが溢れ出た。

泣き崩れる彩加を、要はそっと抱き寄せた。

「いいんだ。お前が生きていてくれた。それだけで、オレにはそれだけで充分なんだ……。お前のいない世界が、どれだけ辛かったか……っ」

「要っ……」

泣いた。

涙が枯れるのではないかというほどに。

今まで溜まっていたものすべてを洗い流すように。

「ようお前ら! 久しぶりだな!」

が、必ず一人くらいは雰囲気を読めないKYと言うものがいるわけで。

「元気にしてたか! ……って、あれ? 2人とも? な、なんか殺気やばk」

「「土に還りやがれ駄神ィィィィ」」

「ギャァァァァァァア!!!!」





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「それで、何の用なのかなァ」

「早くゲロッちゃはないと二度と喋れなくなっちゃうよォ?」

鬼の形相の2人の前にはいつもの2倍のたんこぶをつけて土下座をする銀の姿。

相変わらず神の威厳もない。

「実はさ、これからのことについて話に来たんだ」

「これからのこと?」

「もうすぐやって来る、アレだ」

その言葉に、彩加の表情が変わった。

待ち望んでいたものを待っていた、無邪気な表情。

銀は大きく頷いた。

「リング争奪戦だ」





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「リング争奪戦ですって!?」

「ひゅ〜♪」

驚きを隠せないやちると明らかに楽しむフィアッカ。

そんな2人に説明をするのは漣志だ。

「そうなんス! 2人には綱吉側の守護者として参加してほしいんス!」

「まあ、元からそのつもりでしたが、なぜあなたが直々に?」

「よく分からないっス。僕だってセンパイに説明しろって言われただけっスし」

実のところ、銀は漣志には簡単な説明しか設けていなかった。

やちる、フィアッカの2人に綱吉側の守護者として参加しなくてはいけないということと、そこでやるべきこと。

なぜ、どうして、ということは一切伝えていない。

「センパイは言ってたっス。リング争奪戦に参加し、相手の守護者の力を消滅、または殺害しなくてはいけない。そしてそれは2人じゃないといけない」

「また大胆な要求だね」

「そうっスね」

「ちょっと質問いいでしょうか」

そこで手をあげてたのはやちる。

彼女にとって気になることが一つあった。

「ヴァリアー側の守護者とは誰なのですか?」

もし自分の相手が霜月要だとしたら。

そう思うと居ても立っても居られないのだ。

「分からないっス」

「なんですって?」

「ほ、本当に知らないんス! ヴァリアー側の守護者はセンパイが準備するとしか知らないんスから!」

分からなくちゃあ意味がない。

やちるは無意識のうちに舌打ちをしていた。

それを聞いた漣志は完全に震え上がっていた。

「へぇ、珍しくやちるがやる気だね♪」

そしてフィアッカも、それを楽しそうに見ていた。





†‡†‡†‡†‡†‡





「……で、リング争奪戦ってなんだ?」

話を全て終えたとき、要がポツリと漏らした。

「「え?」」

銀も彩加も素っ頓狂な声を出してしまった。

全く予想もしていなかった言葉が要の口から出たのだ、無理もないが。

だがそれくらい異常な言葉だった。

「お前……覚えてないのか?」

「覚えてるって何をだよ」

「原作を覚えてないのか!?」

半ば叫ぶように言うと、要は訝しげな表情を浮かべた。

「だから、何のことだよ」

銀は知らなかった。

要が自ら望んで原作の知識を捨ててしまったことを。

知識そのものが初めからなかったことにされたことを。

(これも、チョーカーの力だっていうのかよ……)

いつからか知識に固執しなくなっていたのは知っていた。

固執するなら骸を助けるなんてことはしないはずだから、そんなことはわかっていた。

「リング争奪戦ってのは、沢田綱吉側の守護者とヴァリアー側の守護者がお互いボンゴレリングを賭ける戦いだ」

「ボンゴレリング?」

「代々ボンゴレボスとその守護者達に継承されてきたリングのこと。ボスは自分が10代目になる為にツナを潰しにいく。その守護者が私たちヴァリアー幹部なの」

「それ、オレも巻き込まれるパターン?」

「うん」

彩加が頷くや否や、一瞬でorzの体勢になってしまった。

「帰りたい……」

「ま、まあどうせそのうち日本に行くからさ、その時ね?」

なんとか慰めようにもすでにさめざめと泣いている要であった。




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