「ねぇお願い要、あなたの中に私はいるの!?」
祈るように、すがるように絞り出された彩加の言葉。
それを聞いた要は拳を強く握り唇を噛み締めていた。
「オレの中にお前がいるか、だと? ふざけるな! お前は今まで何を見てきたんだ! このチョーカーだって銀に渡されてから一度も外したことなんかねえ! お前とあったあの日も、今も! それでよく忘れられたみたいな言葉吐けるな!」
要の怒号が部屋に響く。
彩加は、ハッと息を呑んだ。
怒る要の胸元、不良気質のある要のボタンの開けられたワイシャツの向こう、そこに紛れもない親友の証があった。
どうして見えていなかったんだろう。
どうして気づかなかったんだろう。
自分に問いかけて、即座に否定した。
見ようとしていなかっただけだ。
気づこうとしていなかっただけだ。
忘れられているかもしれない、そんな自分の妄想に取り付かれていたから。
「わ、私、私……っ」
ごめんなさい。
信じてあげられなくてごめんなさい。
そう伝えたいのに言葉は出なくて、代わりに涙だけが溢れ出た。
泣き崩れる彩加を、要はそっと抱き寄せた。
「いいんだ。お前が生きていてくれた。それだけで、オレにはそれだけで充分なんだ……。お前のいない世界が、どれだけ辛かったか……っ」
「要っ……」
泣いた。
涙が枯れるのではないかというほどに。
今まで溜まっていたものすべてを洗い流すように。
「ようお前ら! 久しぶりだな!」
が、必ず一人くらいは雰囲気を読めないKYと言うものがいるわけで。
「元気にしてたか! ……って、あれ? 2人とも? な、なんか殺気やばk」
「「土に還りやがれ駄神ィィィィ」」
「ギャァァァァァァア!!!!」
†‡†‡†‡†‡†‡
「それで、何の用なのかなァ」
「早くゲロッちゃはないと二度と喋れなくなっちゃうよォ?」
鬼の形相の2人の前にはいつもの2倍のたんこぶをつけて土下座をする銀の姿。
相変わらず神の威厳もない。
「実はさ、これからのことについて話に来たんだ」
「これからのこと?」
「もうすぐやって来る、アレだ」
その言葉に、彩加の表情が変わった。
待ち望んでいたものを待っていた、無邪気な表情。
銀は大きく頷いた。
「リング争奪戦だ」
†‡†‡†‡†‡†‡
「リング争奪戦ですって!?」
「ひゅ〜♪」
驚きを隠せないやちると明らかに楽しむフィアッカ。
そんな2人に説明をするのは漣志だ。
「そうなんス! 2人には綱吉側の守護者として参加してほしいんス!」
「まあ、元からそのつもりでしたが、なぜあなたが直々に?」
「よく分からないっス。僕だってセンパイに説明しろって言われただけっスし」
実のところ、銀は漣志には簡単な説明しか設けていなかった。
やちる、フィアッカの2人に綱吉側の守護者として参加しなくてはいけないということと、そこでやるべきこと。
なぜ、どうして、ということは一切伝えていない。
「センパイは言ってたっス。リング争奪戦に参加し、相手の守護者の力を消滅、または殺害しなくてはいけない。そしてそれは2人じゃないといけない」
「また大胆な要求だね」
「そうっスね」
「ちょっと質問いいでしょうか」
そこで手をあげてたのはやちる。
彼女にとって気になることが一つあった。
「ヴァリアー側の守護者とは誰なのですか?」
もし自分の相手が霜月要だとしたら。
そう思うと居ても立っても居られないのだ。
「分からないっス」
「なんですって?」
「ほ、本当に知らないんス! ヴァリアー側の守護者はセンパイが準備するとしか知らないんスから!」
分からなくちゃあ意味がない。
やちるは無意識のうちに舌打ちをしていた。
それを聞いた漣志は完全に震え上がっていた。
「へぇ、珍しくやちるがやる気だね♪」
そしてフィアッカも、それを楽しそうに見ていた。
†‡†‡†‡†‡†‡
「……で、リング争奪戦ってなんだ?」
話を全て終えたとき、要がポツリと漏らした。
「「え?」」
銀も彩加も素っ頓狂な声を出してしまった。
全く予想もしていなかった言葉が要の口から出たのだ、無理もないが。
だがそれくらい異常な言葉だった。
「お前……覚えてないのか?」
「覚えてるって何をだよ」
「原作を覚えてないのか!?」
半ば叫ぶように言うと、要は訝しげな表情を浮かべた。
「だから、何のことだよ」
銀は知らなかった。
要が自ら望んで原作の知識を捨ててしまったことを。
知識そのものが初めからなかったことにされたことを。
(これも、チョーカーの力だっていうのかよ……)
いつからか知識に固執しなくなっていたのは知っていた。
固執するなら骸を助けるなんてことはしないはずだから、そんなことはわかっていた。
「リング争奪戦ってのは、沢田綱吉側の守護者とヴァリアー側の守護者がお互いボンゴレリングを賭ける戦いだ」
「ボンゴレリング?」
「代々ボンゴレボスとその守護者達に継承されてきたリングのこと。ボスは自分が10代目になる為にツナを潰しにいく。その守護者が私たちヴァリアー幹部なの」
「それ、オレも巻き込まれるパターン?」
「うん」
彩加が頷くや否や、一瞬でorzの体勢になってしまった。
「帰りたい……」
「ま、まあどうせそのうち日本に行くからさ、その時ね?」
なんとか慰めようにもすでにさめざめと泣いている要であった。
▼ BookMark