75、灯台下暗しとは言うけども
「千鶴……何でここに」
「久しぶりやなぁ、うちのボスさん」
いつもと変わらぬイタズラな笑みを浮かべる千鶴。
今ではそれが、狂気に感じる。
「何? お前ら知り合いなわけ?」
「さっきフィリミオが言うてたファミリーの一員やねん、ウチ」
「ふぅん。そう言うのはあらかじめ言って欲しかったかな」
「すまんの。スクアーロ、ベル、マーモン、ルッス。フィリミオと2人きりで話がしたいねん。部屋出てくれへん?」
にっこりと笑って全員に退室を促すと、そのあと部屋の鍵を閉めた。
他人の侵入は許さない。
そう言うかのように。
「何が、目的なの」
「そうピリピリせんと、まずは要に戻ってくれへん? その口調慣れへんねん」
「質問に答えて!」
「うるさいやっちゃな。聞こえへんかったか? 戻れゆうとるやろ」
一瞬にして千鶴の顔から笑顔が消える。
それと同時に室内に彼女の殺気が満ちた。
銀や雲雀には敵わないが、彼らと似た重く鋭い殺気。
そんな千鶴を睨みながら、フィリミオは要へと戻ることにした。
長い髪は肩につかないまでに短くなり、黒曜中の制服から並中の学ランへと変わる。
「けったいなこっちゃなあ、よりによって黒曜中の制服やなんて」
「うるせぇ。慣れだよ慣れ」
ローファーを履き直しながら不貞腐れたように答える。
それを見て千鶴はクスリと笑った。
「それで、お前は何者で、何の目的でオレに近づいたんだ」
「ウチの目的なぁ。ちょい待ち、今考えるわ」
「考えんなよ!」
思わず突っ込んでしまったが、千鶴はそのまま本当に考え込んでしまった。
終いにはうーん、などと唸り出す始末。
本当に目的がないのかよ。
また要が突っ込みそうになった時、そや、と千鶴が声を上げた。
「百聞は一見に如かず、だよね!」
「……え?」
一瞬、完全に流しそうになったが突然千鶴の声と口調が変わった。
「私の目的はただ一つ」
髪を結っていたシュシュを外し手で靡かせると、ブロンド色だった髪が、毛先からプラチナブロンド色に変わっていった。
淡い照明に輝くそれは腰までの長さがある。
「それは」
一度目をつむり再び開くと、黒かったはずの瞳が蒼く煌めいている。
「要のそばにいること」
「そんな……うそだろ……?」
要の声が震える。
あり得ない、彼女の目がそう語る。
目の前にいるのは、前世で事故死し、この世界に存在するはずのない、
「さい……か?」
高城彩加、そのものなのだから。
記憶にいる少女と目の前の彼女の姿が重なる。
何も違うことのない姿がそこにある。
違うことと言えば、明らかな成長を遂げたその体と、その身に纏うヴァリアーの隊服だけ。
「久しぶりだね要。元気で良かった」
「彩加? お前本当に彩加なのか? なんで、こんな……」
「要が言いたいことはわかってる。だから全部話すよ。あの事故が起きたあの日から、今までのことを」
そして彩加は昔と変わらない柔らかな笑みを、その表情に湛えた。
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