74、不穏な空気不安な気持ち




場所はフィリミオが目を覚ました部屋。

結局あの後は少年たちの制止によって銀髪の彼への制裁は不発に終わった。

腹の虫がおさまらないので一発だけ殴りはしたが。

「で、何なの? あんたら誰? 目的は?」

「いっぺんに聞くなぁ!」

「はあ? 勝手に拉致ったのはそっちでしょ? なら文句言うなよ」

思い切り相手を睨む。

「ちっ。オレ達はボンゴレに所属する独立暗殺部隊ヴァリアーだ」

「またボンゴレかよ。て言うか、ヴァリアー?」

その名に聞き覚えがある。

なんとか記憶を辿ってみると、そういえば確かに聞いたことがある。

確かあれは囚人を捕まえに行った時、その人物がすでに殺されていたことがあった。

バミューダ曰く、ヴァリアーの仕業だ、と。

「ああ、人の仕事を邪魔してくれた荒くれ集団ね」

「どーゆー覚え方だよ……」

「そーゆー覚え方だよ」

ふんっとそっぽを向く。

あの時は何より処理が面倒だったのだ。

なにせ、囚人を殺されてしまったのだから。

しかも相手が暗殺部隊なら文句も言えないし。

「で、名前は?」

「オレはS・スクアーロだぁ」

「オレはベルフェゴール」

「僕はマーモンだよ」

「私はルッスーリアよん」

「なるほど。ベルフェゴールとマーモンはさておいて、ルッスーリア。さっきはご飯ありがとう。それとスクアーロ、やっぱり後でもう一発殴らせろ」

「なんでだぁ!」

「ん、そう言えばあいつは?」

「彼女なら眠いからって部屋に引っ込んだよ」

彼らがそう言うのは、スクアーロを散々バカにしていたあの少女のことだ。

確かにあれからずっと姿を見ていない。

マーモンの口調からして、どうやら彼女はスーパーマイペースらしい。

「あいつはいい。それよりてめぇを連れてきた理由を話す」

「ようやく本題だね」

「目的は一つ。てめぇをヴァリアーの幹部にするためだ」

「はぁ?」

思わず間の抜けた返しをしてしまう。

「私がヴァリアーの幹部に? 寝言は寝てから言いなよ」

「ちなみに拒否権はねぇ。うちのボスの命令だからな」

「……っざけてんなよ」

バギッと音がする。

フィリミオが持っていたコップが粉々に割れた音だ。

「勝手なのもいい加減にしてよ。人の事情を考えようとか思わないわけ?」

「事情?」

「私はそんなことしてる暇じゃない。ファミリーが待ってるんだ」

ファミリー。

その言葉に面々の表情が変わった。

「ファミリーだって? 君はフリーじゃなく、どこかのファミリーに所属してるってのかい?」

「……知らなかったの?」

「初耳だね」

驚いた。

氷の姫(ブリザード・プリンセス)なんて言う、自分でも知らない通り名を知ってるくらいだからそれだけの情報を持って居ると思っていた。

それなのに彼らは、自分が一ファミリーのボスであることを知らない。

「ギリビッゾファミリーのボス、フィリミオ。それを知らずに通り名だけ知ってるって、情報偏りすぎじゃない?」

「僕たちが君を選んだ理由はここ最近で知名度が上がってるからさ。こんなに若いボスが存在してるって話自体は初耳だね」

知名度が上がってるって?

フィリミオは訝しげな表情になった。

確かにずっとあちこちを動いていろいろやってはいるが、あくまでそれは復讐者(ヴィンディチェ)としてだ。

だからその素顔を知るのはバミューダ達だけで、ましてや氷の姫(ブリザード・プリンセス)と言う通り名が付けられるような動きは一切していないはずだ。

あるとしてもマフィア捕獲大作戦の時だけで、あれから既に2ヶ月が経とうとしている。

「あんたらが偏った情報に頼ってるってことはわかった。けど、さっきも行ったとおり暇じゃない。ただでさえ帰れないんだから、こう言うことは引き受けられない」

「拒否権はねぇと言ったはずだぁ」

「ふざけんな。つーか、私がヴァリアーに入って、私に何のメリットがあるってのさ。デメリットしか見受けられないよこんなの」

「メリットならちゃんとあるで?」

不意に別の声が聞こえてきて、肩をビクつかせる。

いつの間にか開いていた部屋の入り口に、1人の少女が立っていた。

その姿を認識して、フィリミオが目を見開いた。

「メリット、デメリットの話やったらウチが説明したるわ」

ブロンド色の、ポニーテールにされた髪。

独特な関西弁。

そして、聞き覚えのある懐かしい声。

「ち、千鶴……!?」

「久しぶりやねんな、要」

そこにいたのは、日本にいるはずの、榊原千鶴、彼女そのものだった。




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