73、ヴァリアー参上!




激痛で目が覚めた。

ズキズキと痛む頭を押さえて起き上がる。

そこに広がるのは全く知らない風景。

自分の家でも、病院でも、学校でも、ましてや銀の世界ですらない。

「いてっ」

ズキンッと頭が痛む。

その拍子に意識を失う前のことを思い出した。

突然現れた銀髪の男、始解した斬魄刀、なぜか氷漬けになった自分の足、そして首元への衝撃。

つまり、あの後あの声のでかいやつに拉致られたってことか。

「それにしても、お腹減ったなぁ」

あれから何時間経ってるのか知らないけど、少なくともあれより5時間前から何も食べてない。

ベッドから降りてブーツを履くと、部屋の扉を開けた。

広い廊下に同じような扉が幾つか並んでいる。

「食堂とか、あるかな」

寝起きと痛みで働かない思考のまま、食堂を探しに足を踏み出した。




†‡†‡†‡†‡†‡




大会議室。

大きなテーブルを八つの人影が囲んでいる。

正確には7人と1体、だが。

そこにはフィリミオの前に現れたあの銀髪の男もいた。

「それで? 彼女は今どうしてるの?」

フードを被った赤ん坊が問う。

「気絶させて部屋に連れて行ってあるぜぇ」

「逃げられはしないだろうな」

今度は、8本の傘を背負う男が問う。

「その心配はねぇ。監視をつけてあるからなぁ」

「へぇ。“たまーには”ちゃんと仕事するんだね」

プラチナブロンドの髪の少女がケラケラと笑う。

「ガキィ! バカにしてんのか!」

男が椅子から立ち上がり怒鳴る。

「そう怒らないの」

それを宥める奇抜な髪型でフェミニンな口調の男。

仕方なく舌打ちをしてから座るが、少女は声を殺して笑続ける。

「報告は以上だ。オレは奴の様子を見て来る」

「あ、じゃあ王子もついてく」

金髪にティアラを乗せた少年が、キラリと光るナイフを持った手をひらひらと振る。

「遊びじゃねぇんだぞ」

「知ってるし。いーじゃん顔見るくらい」

諦める気がないのは誰が見ても明らかだ。

男はまた舌打ちをする。

「じゃ、私はご飯の用意でもして来るわ」

そう言って一人が部屋を出て行く。

それに続くようにして赤ん坊や少年たちも部屋を後にする。

各々が解散する中、男と少年は一つの部屋に向かう。

一応ノックをしてから扉を開ける。

しかし、

「ん、いなくね?」

そこには誰もいなかった。




†‡†‡†‡†‡†‡




「んーっ美味しいーっ!」

「本当? 嬉しいわぁ」

食堂にて。

なんだかんだで食堂を見つけられずに廊下で行き倒れたフィリミオだったが、偶然通りかかった彼によって賄いをもらって復活した。

あまりに幸せそうに食べるので本人も顔がほころぶ。

「ごちそうさま。はぁ、生き返った」

「女の子なんだからご飯はちゃんと食べなきゃダメよ」

「はーい」

フォークを置いて両手を合わせる。

目的は果たしたわけで、次にどうしようかと考える。

そんな時である。

「ガキはいるかぁっ」

食堂の扉が音を立てて開いた。

そこから銀髪の彼がご立腹の様子で現れた。

後ろには金髪少年と、途中で合流した赤ん坊もついて居る。

そして、彼とフィリミオが同時に互いに気づいた。

「あ! 声のうるさい誘拐犯!」

「見つけたぞガキィ!」

叫んだのもほぼ同時。

次の瞬間、食堂の気温が下がった。

既視感(デジャヴ)を感じた男はとっさに剣を構える。

その時男は気づいた。

さっきまでフィリミオが使っていた食器にうっすら氷が張っていることに。

少年は気づいた。

彼らが吐く息が真っ白になっていることに。

赤ん坊は気づいた。

それは全て、フィリミオの殺気によるものであることに。

「さ、どの指からへし折られたい? 今なら希望だけは聞いてあげるよ?」

超満面の笑みで問いかけるフィリミオだが、その目は全くと言っていいほど笑っていない。

わかるだろうか、今現在フィリミオはかなりキレていた。

「ちょっくら歯ァ喰いしばれや」




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