71、うるさい男参上である




「やめろっ……来るな……ッッ! た、助けてくれェェェ!!!」

「うるさいなぁ、ギャーギャー騒ぐんじゃないよ! 叫ぶくらいなら違反すんなアホ!」

イタリアの森に、断末魔と怒号が響いていた。

ぶっちゃけ怒号の矛先は、違反ではなくその煩さに対してである。

そこにいたのは、復讐者(ヴィンディチェ)の格好をしたフィリミオと、違反者を連れて行こうとする別の復讐者(ヴィンディチェ)の姿。

間も無くして、男は牢獄へと引きずられて行った。

「はぁヤダなぁどいつもこいつも。ギャーギャー騒い時ゃってさぁ」

「それが人間と言うものだろう」

さらりと放つイェーガーに、フィリミオは小さく息をついた。

全くその通りだ、その意を込めて。

そのあとは彼と今後のことを話し、イェーガーは去って行った。

残されたフィリミオはマントを脱いで帽子を取り、無造作に巻きつけてあった布をとった。

ふわっとエメラルドグリーンの髪が柔らかくおりて来る。

マントの下には黒曜中の制服がまとってあった。

何故に黒曜中、と思うかもしれないが、『マフィア捕獲大作戦』の際に骸に合わせてこれを着て以来、かなりのお気に入りになったためにフィリミオの勝負服となっている。

要で言う学ランのようなものだ。

「それにしても、呼び出されて強制されて仕事して、って、何これ。早く帰らせろっての」

ブツブツ言いながらスクールバッグから取り出したのは、いちご牛乳。

この後に及んでこれを飲むとは、中毒性高すぎである。

ズズッと音がして中身が空になりかけた、その時だった。

「霜天氷龍」

一瞬して彼女の背後に氷の壁が展開される。

その直後、凄まじい音を立てて何かがそれにぶつかった。

「ちいっ」

何か、否“誰か”が舌打ちをする。

いちご牛乳のパックを潰してバッグに入れると、フィリミオは背後を振り返った。

そこにいたのは、長い銀髪を持ち剣を携えた1人の男。

「あんた誰? 背後から攻撃するには殺気がダダ漏れなんじゃないかな?」

「う"お"ぉい! てめぇが氷の姫(ブリザード・プリンセス)かぁ!」

「うるさっ。ブリ……はい? てか答えろよ」

何処と無く話が噛み合わない。

なんだかいつだったかこんな会話があったような無かったような。

そんなことよりもフィリミオは聞きなれないワードに戸惑っていた。

(ブリザード・プリンセス)とは一体なんのことやら。

首を捻っていると、男が再び叫んだ。

「てめぇがフィリミオかって聞いてんだぁ!」

「あ、そーゆーこと? はいよ、私がフィリミオですが何か?」

名前を呼ばれてようやく自分のことだと気づく。

答え方は若干不服そうだったが、それを聞いて男はニヤリと笑った。

「ガキ、オレについてこい」

「だが断る」

「即答かよ!?」

半かぶせ気味の回答でした。

しかもめっちゃ冷やっこい目で見つめている。

「まぁいい。強制的に連れて行くからなぁ!」

「うっわー、大胆に人権無視されたー。つーか声でかー」

棒読みで突っ込みつつも、いつの間にかしっかりと刀を構えている。

刹那、気温が下がった。

「吹き抜けろ、霜天氷龍」




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