70、今日も賑やか霜月家




要がイタリアに発って数日。

今日も霜月家は賑やかだった。

とは言っても基本的に犬がぎゃんすかと五月蝿いだけなのだが。

「んあーっ! 何でオレらこんな部屋狭いんら! 何でオレらだけ3人で詰め込まれてんだびょん!」

「……犬、五月蝿い」

「うるさくねーびょん! てか柿ピーは文句ないわけ!? 3人で一室にいんらぞ!?」

「文句をいうものではありません。大人数で暮らすことを考えてない上に年頃の女子が住む家です。それで一番大きな部屋を割り当ててもらっているのですから文句などでないでしょう。そもそも僕たちは居候ですし」

なんでも、犬にとっては割り当てられた部屋のサイズが気に食わないらしい。

しかしご存知の通りこの家は5LDKで、6人が同時に住むには少し無理がある作りなのだ。

要はもちろん、ユニやクロームは女子のため一室ずつ与えられている。

ユニはまだ幼いので寝る時は実はクロームのところで寝てあると言うのは彼らには内緒である。(犬が五月蝿いから)

そんなわけで黒曜ボーイズは2階にある最も広い部屋(実質2部屋)を使っているのだ。

これで文句とは、贅沢なやつである。




†‡†‡†‡†‡†‡




「城島さん、また騒いでますね」

「ほんとだね」

上の階の騒ぎを聞きながら苦笑いをする女子2人。

始めの頃こそうるさく感じていたが、あまりの日常茶飯事っぷりに見事に慣れてしまった。

彼らの声をBGMに、ユニの髪をとかそうとクロームがクシを手にした時だった。

ピンポーン

インターホンが鳴った。

「私が出ます」

立ち上がろうとしたクロームよりも先にユニが玄関へと向かった。

人前に出ても平気な程度に手ぐしで髪を直す。

そして玄関のドアを開けた。

「ん、要じゃない?」

彼女の姿を見て驚くのは、山本だった。

「コスモ、だっけか?」

ユニを見てそう尋ねる。

それに対してユニは小さく首を振った。

「兄がお世話になりました、妹のユニです」

「そっか。あのさ、要っているか?」

「要ならいないよ」

そう答えたのは、ユニの後ろから現れたクロームだった。

親友の家にいる、知らない少女たち。

そのことに山本は驚きを隠せないと同時に、ちゃんと友達がいると言う事実に安心していた。

「どこに行ってるんだ?」

「…………」

しかしクロームは黙ってしまった。

何も言わずにユニを骸たちのいる2階へと向かわせると、静かに口を開いた。

「あなたは誰? 要の、何?」

クロームにしては珍しくきつい口調になる。

今まであったことのない山本に対して警戒していた、と言うのが強い。

「オレは山本武、要の親友だぜ」

「クローム……クローム髑髏。要の親友で家族(ファミリー)

敢えて使ったその言葉に、山本は反応した。

「ファミリーって、マフィアのか?」

その問いに、やはりクロームは答えない。

今の会話で彼が、要と千鶴の話していた“山本武”で、“沢田側”の人間だと確信したからだ。

それならば尚更、要については話せない。

彼女が隠そうとしている事実を自分が教える訳にはいかない、そう思った。

「クローム! 腹減ったびょん!」

唐突に、家の中から犬の叫びが聞こえて来た。

それを聞いて、クロームは山本に一礼をしてから玄関のドアを閉めた。

何か言いたげな山本を残し、非情にもドアは音を立てて閉まった。

「今の……まさか、な」

嫌な予感を振り払い、山本は家へと帰って行くのだった。




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