65、帰宅と異変




夜も深まり、頼りになるのは街灯と月の明かりだけになってしまう時間帯。

そんな並盛にひっそりと歩く二つの影があった。

彼らは町の一角にある家にたどり着くと、音を立てぬように鍵を開け、静かに中に入った。

「ただいまー」

聞こえるかどうかくらいの声量で声を掛けるのはエメラルドグリーンの髪を持つ少女。

その隣で同じく小さな声で「おじゃまします」と言うのは深緑色の髪を持つ幼い少女。

2人は玄関を抜けてリビングへと入った。

その時だった。

「おかえりっ」

「うわっ!?」

突然誰かに飛びつかれ、暗闇の中倒れこんでしまう。

その直後、部屋の電気がついた。

「な、凪!?」

眩しい光に目を細めながら見たそこにいたのは、自分に飛びついたのは凪だった。

よく見れば、骸・犬・千種も周りに立っている。

「……おかえり」

「おっそいびょん!」

「クフフ、まったくです」

「お帰りなさい、要」

次々に声をかけてくる大切な人たち。

その光景に、彼女、要は零れそうな涙を堪えて、精一杯の笑顔を作った。

「ただいま」




†‡†‡†‡†‡†‡




「三千院家に縁を切られた!?」

「要、夜中ですよ」

「悪ぃ……」

凪からの突然のカミングアウトに思わず叫んでしまい、骸に嗜められる。

しかしながら内容が内容なものだから叫んでしまうのも無理はない。

家を追い出されただけではなく学校までも追い出されてしまったのだから。

「つーか凪、お前いつの間に髪切ったんだ?」

そう要が聞いてしまうのも仕方ない。

出かける時には肩甲骨よりしたまであった凪の長い髪は、今やとても短く、それこそ骸と同じくらいまでに短くなっていた。

すると、凪は少し照れ臭そうに笑った。

「実は要が出かけた次の日に。家も学校も追い出された時にわかったの。私はもう三千院凪じゃないんだって。そしたらなんて言うか、いろんな思いが湧き上がっちゃって、だったら凪を捨ててやるって思って、それで髪切っちゃった」

少なからず「てへっ☆」みたいなノリで喋っているが、早々たる覚悟がなければここまで思い切った行動には出れないだろう。

けれど凪にはその覚悟があった。

要は、それに気づいていた。

「だからね、要。こんなこと言うのは変かもしれないけど、私はもう凪じゃないから、凪って呼ばないで」

「んなこと言ったって……」

なんて呼べばいいんだよ。

それが本音だった。

実を言えば凪に関しても同じことで、『三千院凪』を捨てたかっただけで、なんて呼ばれたいかまでは全く考えていなかった。

「クローム髑髏」

不意に、骸がそう呟いた。

自然と全員の視線が彼に集まり、等の本人はいつも通りの不敵な笑みを浮かべていた。

「僕の名前のアナグラムです。全く違う自分になりたいのなら、これもありなんじゃないですか?」

「クローム……」

「ろくどうむくろ、くろうむどくろ。ああ、なるほどね」

わからない人のために一応解説。

アナグラムと言うのはある言葉を並べ替えてできる言葉のことである。

暗号などでよく使われるので、(機会はないかもしれないが)覚えておくと便利かもしれないぞ!

「どうですか? 凪……いえ、クローム」

骸の問いかけに、しばらく沈黙が続く。

そして、小さくコクリと頷いた。

「わかった。私はクローム、クローム髑髏」




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