64、とりあえず箸休め




ここは日本、並盛町。

そこにある一件の家から、とても楽しそうな鼻歌が聞こえてくる。

そんな歌元は、凪である。

彼女は今、楽しそうに鼻歌を歌いながら楽しそうに料理を作っていた。

それもそのはずで、今日は要が帰ってくる予定日なのだ。

ピンポーン

不意にインターホンが鳴る。

一度料理をする手を止めると、軽い足取りで玄関まで駆けて行った。

「おかえ……り?」

そこにいたのは骸と知らない2人。

どうしてこの家は玄関の扉を開けるたびに知らない人が現れるんだろうか。

「驚かせてしまいましたね。彼らは城島犬と柿本千種。僕とともに黒曜中に転校して来た仲間です」

「あの……要は?」

「…………。ああ、彼女ですか」

幾分か間をあけてからの返事。

さりげない質問のはずだったのだが、明らかに骸の表情が変わった。

そこには僅かながらにも、怒りの様子が見える。

「知りませんよ、あんな人」

とてもぶっきらぼうな答えだった。

出かける前はあれほど仲が良さそうに見えたと言うのに、この様子からすると、どんな経緯かはわからないがおそらく喧嘩別れでもして来たのだろう。

凪はそう感づいていた。

実際喧嘩別れしてるので何も間違ってはいない。

「ん、飯の匂いがするびょん!」

「あっ、ご飯の準備……」

犬の言葉に、自分がまだ料理の途中であったことを思い出す。

台所に戻り目に入るのは、要のためと思って作っていた彼女の好物ばかり。

それでもいないのならば仕方が無いと、作り終えるために再開する。

様子見なのか、骸達が台所にやって来たので手が回らないところの手伝いを任せることにした。

そうすること5分前後。

ダイニングテーブルの上には綺麗に料理が並んでいた。

『いただきます』

各々で食べ始めるが、凪だけはなかなか手をつけようとしない。

その代わりに骸達の顔色を伺っていた。

どうやら、思った以上に自信がないらしいが……。

「……おいしい」

「うめーびょん!」

「ほう、これはなかなかの腕前ですね」

彼らがそう感想を告げたことで、安堵の表情が広がった。

ふわりと笑うその笑顔になぜか顔を赤らめた3人。

そのことに気づかないままに凪も食事を始め、その美味しさにまた笑顔を浮かべた。

本当ならば一番に要の感想が欲しかったのだが、いつも作ったお菓子の感想をもらっているからいいかな、と思って諦めることにした。

4人は知らない。

皆がこうして食卓を囲んでいる間に、一体要がどこにいて、誰と会って、何を話しているかを。

そして4人は知らない。

これからこの家で、何が起きようとしているのかを。




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