63、掟




アリアは、静かに話し始めた。

自らが犯した、とても重い罪について。

「私たちジッリョネロファミリーにはある掟があるの。『日を同じくして子が生まれた時、一人を残して間引くべし』つまり、双子が生まれてしまった場合、下の子を殺せと言うことなの。これは権力争いが起きないように、ジッリョネロが平和であるための掟よ。もちろんボスである私の場合なんか双子じゃなくても産んではいけないわ。
それなのに私は、双子を、コスモとユニを産んでしまった……でも……間引けるはずないじゃない! いくら掟だとしてもお腹を痛めて産んだ子を殺せなんて残酷すぎるわ! だから、だから私は森の外れにあるこの小屋でユニをこっそり育て続けて来たの。
γを含めてファミリー全員、私の子はコスモ一人だと信じてる。でも、いつバレてしまうかわからないわ。バレてしまえば……私もユニも殺されることになる」

「そんな……アリアさんが殺されるなんて」

「マフィアの世界は甘くないのよ」

つい昨日まで復讐者(ヴィンディチェ)として多くの罪人を捕えて来た要にとって、理解できない話ではない。

自らがファミリーの掟を破ったことで投獄された人も少なくなかった。

けれど、この掟がどれほど酷なことか、考えなくてもわかる。

だからこそ、要は決意した。

「アリアさん、ユニをください」

「……え?」

ここで注意したいのは、決してプロポーズではない。

「要、何を言っているの?」

「本当はコスモのつもりできてたんですけど、こうなら話は別です。実はオレ、日本に帰ったらファミリーを作るつもりでいます。そのメンバーとして、ユニをくれませんか?」

銀が何としても止めようとしていた要の決意。

それは、要をボスとしたファミリーの結成だった。

そしてその一員としてコスモを引き入れるつもりでここまで来たのだ。

よく考えてみればコスモはジッリョネロの次期ボスであるのだから許されるわけがなかった。

それがここに来て状況が一変した。

存在してはならないはずのコスモの双子の妹、ユニ。

「何を言ってるかわかってるの? ファミリーを作るだなんて……それに、せっかくマフィアから遠ざけて来たユニを危険に巻き込もうと言うの?」

「それは違います! むしろ今の状態の方が危険でしょ!? ジッリョネロにいる以上アリアさんもユニも命を狙われているのと同じこと。だったらいっそのことジッリョネロからユニを離した方が安全なんじゃないんですか!?」

初めて見る要の剣幕に、アリアは言葉を失ってしまう。

それでも要は続けた。

「たとえどんなに隠そうとマフィアの血は争えない。ボンゴレ10代目候補と呼ばれる少年はなんの変哲もないただの中学生です。初代の血を引いてるとわかった途端、彼の人生は変わりました。それまではマフィアも知らない一般人だったのに」

「そう……やっぱりユニは守れないのね。私がどんなにがんばったって、私の子に生まれてしまったせいで、ユニはいつまでも辛い思いをしなくちゃいけないのね……。あの時、間引くべきだったんだわ」

「ふざけんなよ!!」

パシンッと乾いた音が部屋に鳴る。

泣き崩れてしまったアリアの頬を、要が思い切り叩いていた。

驚きに固まるアリアの目には、怒りを溜めた要が映っていた。

「生まれて来ない方がいい命なんてあるわけねぇだろ! 何のために隠してまで育てて来たんだよ、生きて欲しいからじゃねぇのか!?」

「生きて欲しいわよ! けど……掟から逃れることなんて」

「アリアさん、オレが言った意味わかってます? ジッリョネロから引き離すと言うことはその掟からも切り離されるってことですよ?」

その言葉に、アリアはハッとして顔を上げた。

「オレが、命に代えてもユニを守ります」

自分を見つめてくるその目には、少しの迷いもない決意だけが浮かんでいた。

覚悟、その一言に尽きた。




†‡†‡†‡†‡†‡




「ユニ、時間よ」

「はーい」

トランクを持ったアリアと、彼女を追うユニが小屋から出てくる。

森を出たそこには、要が準備を終えて待っていた。

「行ってらっしゃいユニ。要、ユニを頼むわね」

「もちろんすよ。ユニ、これからよろしくな」

「こちらこそ!」

アリアとコスモが見守る中、要とユニはイタリアを発った。




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