61、そしてイタリアへ




「助けてくれェ!」

夜のイタリアの森に、男の叫び声がこだまする。

まるで、悪魔にでも捕まったかのような、否、実際に悪魔に捕まっていた。

復讐者(ヴィンディチェ)と言う名の悪魔に。

「ゴ苦労ダッタ。コレデ全員ダナ」

「約束通リ、城島犬ト柿本千種ヲ解放スル」

そう言うが早いが、黒い炎が現れてそこから犬と千種が引き摺り出された。

フィリミオが犬を、骸が千種を支える。

それを見ると復讐者(ヴィンディチェ)は去って行った。

刹那、フィリミオ、否、要が崩れるようにして倒れた。

「要!? 大丈夫ですか!?」

慌てて骸が駆け寄る。

「平気だ……少し、疲れが溜まってるだけだから……」

「大丈夫なはずはないでしょう。熱があるじゃないですか!」

要の額に手を当てると、とても熱くなっていた。

ここ最近はホテルに泊まることすらままならず、野宿をすることが多くなっていた。

もちろん雨の日でさえも。

風紀委員の仕事でさえ体調を崩すのだ、この1週間の厳しい生活に要の体が耐えられるはずがなかった。

「すぐ病院に行きますよ」

骸が即座に要を抱え上げる。

しかし

「大丈夫だから放ってくれ!」

「要!」

要はそれを拒んだ。

「骸、お前は犬と千種を連れて先に帰ってろ。オレはまだ用事がある」

「ふざけないでください。そんな状態の君を残していけるはずがないでしょう」

「ただの風邪だろうが。一晩休めば治る」

「君も少しは僕の話を聞いたらどうですか」

「うるせェな、さっさと帰れっつってんだよ!」

要の怒号が森にこだまする。

驚いたカラスたちが一斉に飛び立つ中、骸は冷ややかな目で要を見据えていた。

それは、初めてあった時と同じ、相手を見下すだけの視線。

「わかりました、僕は帰るとします。そのままくたばり死んでも知りませんから」

それだけ言うと、犬と千種を背負って骸はその場を去って行った。

夜が近づき闇が侵し始めた森の中で、要は静かに伏せるのだった。




†‡†‡†‡†‡†‡




「……なめ、要」

名前を呼ばれて目を覚ます。

目の前には、心配そうにしている銀の姿があった。

起き上がろうとしても、声を出そうとしても、うまくいかない。

あまりにも体がだるすぎて全く力が入らなかった。

「無理すんな。熱だして倒れたんだ」

無理にでも体を起こそうとしたら、銀に優しく制されてしまった。

額に当てられた手がすごく冷たくて、すごく気持ちが良かった。

同時に少し体が楽になった気がした。

「悪ぃな、ホント」

「気にすんなって。それよりなんでイタリアに残ったんだ? 凪だって待ってんのにさ」

「ちょっと、アリアさんに用事があってな」

苦笑いをしながら伝える。

その時、銀の表情が動いた。

考えていることがバレたんだって否が応でも気づかされる。

正直な話、自分でも無謀な賭けに近いものだとわかってる。

ジッリョネロに行って、そこでアリアさんとどんな話をして、そこから先どんな行動を起こそうしているのか。

だから苦笑いだった。

「やめとけ」

「なんでだよ。無謀って言うならわかってる」

「アリアが許すと思うか? 無謀以前に危険すぎる」

「危険かどうかはオレ次第だ」

「無責任すぎる」

銀にがっしりと肩を掴まれた。

あまり力が入っているわけでもないのにその手を振りほどくことができない。

いつもと様子が違いすぎる銀に戸惑いは隠せなかったが、それでもしっかりとした眼差しで彼を見つめた。

「それでもやってやる。絶対にな」




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