Watch out(クロウ)
マーサハウスを出て行った幼馴染達、遊星、クロウ、ジャックはWRGPに出場するために頑張っているとマーサから聞いた。(ジャックは無職と聞いたけど)今はブルーノというメカニックも加わっているみたいだけど。私も少しは役に立ちたくて差し入れを準備し4人が住んでいるポッポタイムへとやってきた。あわよくば密かに想いを寄せているクロウに会えたらいいなとも思いながら。
「遊星ー!クロウー!ジャックー!ブルーノ!誰かいないのー?!」
声をかけながら中に入ったけど人の気配がない。みんないないみたいだ。差し入れだけ置いて帰ろうかとも思ったけど、せっかく来たしもう少し待とうかな。部屋に置いてあったソファに腰掛ける。このソファ思っていたより柔らかくて座り心地がいいな。…誰もいないことを念のため再度確認してからソファに横になってしまった。想像以上に気持ちがいい。クロウ達まだ帰ってこないのかな…。いけないとは思いつつ私は起き上がることはできず、少しずつ瞼が重くなっていく。
「おーい!帰ったぞー!誰もいねぇのか?」
このよく通る声はクロウだ…!その声で目が覚めた私は即座に起きあがろうとしたけどここである考えが浮かんできた。このまま寝たふりをしていたらクロウはどんな対応してくれるのか。騙すようで少し気が引けるけど好奇心には勝てなかった。
徐々にクロウの足音が近づいてくる。そして私がいるソファの前で足音が止まる。
「ヒナ!来てたのか!…って寝てやがんのか。」
クロウはソファの空いてるスペースに腰掛けて私の頭を優しく撫でてくれた。
「気持ちよさそうだな…。ん…?」
クロウに触れられたところが熱くなってバレないかが心配になってきたが、ここで私はあることに気づいた。クロウなら私を見つけたらすぐに起こすかと思っていた。だからその時に起きあがろうと企んでいたのだが起こしてくれない。まだ頭を撫でていてほしい気持ちもあるし…。どうしようクロウが席を外した時に起きようかな。悩んでいるとクロウの顔が近づいてくる気配がした。
「ぐっすり寝てんだから…キスぐらいはしてもバレねぇよな。」
耳元で吐息混じりに囁かれた言葉。私が寝たふりをやめるには充分すぎる理由で…私は勢いよく起き上がった。
「やっぱり狸寝入りだったか。」
「な、何でわかったの?」
「長い付き合いだからな。顔みりゃ分かる。残念だったな。…そういや何しにきたんだよ?」
いけない。うっかり本題を忘れるところだった。
「あ、えーっと差し入れを持ってきたの。そこに置いてあるでしょ。」
「わざわざ持ってきてくれたのか!助かるぜ!」
良かった。クロウが喜んでくれるならここまで来た甲斐があったというものだ。
「じゃあ私はそろそろ帰ろうかな。あんまり遅くなるとマーサが心配するし…。」
「もう帰んのか?送ってやるよ。」
「いいよ。疲れてるでしょ?だから自分で帰るよ。」
「ここは送られとけ。」
渋る私を押し切ってクロウは私を無理やりブラックバードに乗せてマーサハウスまであっという間に無事送り届けてくれた。
「ありがとう。クロウ。」
「こっちこそ差し入れサンキューな!…そうだ。一つ言い忘れてたことがあったぜ。」
クロウは神妙な顔で私との距離を一歩詰めたかと思うとデコピンをされた。手加減してくれたのか全然痛くはなかった。
「あんなとこで寝てんじゃねーよ。」
「…えっ?」
「…いくら気心が知れた仲とは言えもう少し警戒してくれ。誰に襲われても文句は言えねーぞ。」
「う、うん…。」
「分かったんならいい。じゃあオレは帰るぜ。」
ブラックバードで駆け抜けて行くクロウの背中を見ながらもしあの時、寝たふりを継続していたらクロウはどうしていたんだろうか…。と考えてしまう私なのであった…。
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