「なぁ、………兵太夫は何で僕と……こういうこと、するんだ…?」

今にも消え入りそうな声でそう言った伝七の目は、散々泣いた後で赤く腫れていた。
膝を抱え込み、小さく身体を丸めながら、まるで怯えた子供のように兵太夫を見つめる。

「べつに、理由なんてないよ。たまたま僕が欲求不満で、たまたま近くにお前がいただけ」
「………っ」
「でもまぁ強いていうなら、お前のそういう顔が見たいからかな」

兵太夫は、あからさまに傷付いたような顔をして目を逸らした伝七の顎を捕え、にっこりと笑って見せた。
見開いた真ん丸の瞳を揺らして、悔しそうに、そして悲しげに伝七の表情が歪む。ああ、ぞくぞくする。先程発散させた醜い欲望が、また膨らんでいく。

「ッ……最低、だな」
「そんなの今更でしょ」
「………」
「じゃあ逆に聞くけど、伝七は何で僕とこういうことするの?」
「……っ!」

答えなんてとうに分かっている。
伝七は馬鹿だけど、嫌いな奴に抱かれる程阿呆な人間ではない。
好きだから、愛しているから。本当は同じ気持ちである兵太夫が、一度も伝えたことのないその言葉を、この意固地でプライドの高い男の口から聞き出すのが、心底楽しみであった。
しかし、伝七は兵太夫の楽しげに笑う顔をきっと睨みながら、口を開こうとしない。

「言えないの?」
「…………」
「ねぇ、言ってよ…伝七」
「………あっ、」

口を噤んだままの伝七に多少の苛立ちを覚えた兵太夫は、白く細い腕を掴み、押し倒した。
行為が終わり、着流しを羽織るだけの伝七の身体は兵太夫の眼下に晒され、胸元には多くの所有印が残っている。鎖骨の上にある赤い鬱血痕を優しく指でなぞれば、びくりと華奢な身体を震わせる。

「ほら、早く言わないとまた犯すよ」
「な、っ!」
「それとも、伝七は僕に犯されたいの」
「ち、が…っ」
「伝七」
「……いつも……お前、ばっかり…ずるい…っ」

ぽろりと伝七の瞳から一筋の雫が伝い落ちる。
もう涙は枯れてしまったものだと思っていたが、まだ出るのか。兵太夫は震える伝七の身体に舌を這わせながら、そんなことをぼんやり考えた。
可哀想なんて、そんな感情はとっくになかった。伝七が涙を流せば流す程、兵太夫を喜ばせるものでしかない。いい加減、学習すべきだと思う。
兵太夫は、はぁと溜め息を一つ漏らし、嗚咽を漏らす伝七の頭を、小さい子をあやすようによしよしと優しく撫でた。

「ひっく……へいだ、ゆが……好き」
「うん、しってる」


好き。大好き。

今度こそ本当に消えてしまいそうな声で漸く紡がれたその言葉に、大層満足気に微笑んだ兵太夫は、相も変わらず涙を流し続ける瞳に、ご褒美の口付けを落とすのだった。



好き以外の理由なんてあるわけない



「じゃあ、もう一回しようか」

「えっ、それじゃあさっきと言ってることが違…!」

「は?なにいってるの。伝七に拒否権はないから」

「な!ちょ、や、いやだ……あ…っ」





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