「俺が……お前を閉じ込めたいと言ったら、お前はどうする」
訳の分からないことを言っている自覚はあった。そして、それが非現実的なことも。
「鬼道になら、俺は大歓迎だ」
自分でも理解できない問いかけに、目の前の佐久間は特に悩んだ様子もなく、まるでそれが当然だとばかりに即答した。
閉じ込めるなんて、実際できないし、したいとも思わない。俺達は恋人ではない。佐久間の一方的な想いをただ受け入れるだけで、少なくとも同じ想いを返した覚えは自分にはなかった。
けれど、好きだ好きだと身体全部で訴えてくる佐久間を、俺を尊敬し全力で慕ってくれる佐久間を、もしも失ってしまったら、と考えるとどうしようもない不安で押し潰されそうになったのだ。
いつだって佐久間が俺に愛情を示してくれるのを当たり前だと思っていた。だから、一度も考えたことのなかった仮定の話。
「それで、俺を閉じ込めたら鬼道は何をするんだ?」
「……さぁな」
佐久間を自分の中に閉じ込めて、何をしたいとか、どうしたいとか、そういう具体的なことは考えなかった。ただ、いつでも隣で笑ってくれたその笑顔を見れなくなるのが寂しいと、自分らしくもないことを思う。
仮に、佐久間の気持ちが自分ではない誰かに向けられた時、俺はその事実を許せるだろうか。
たぶんこの気持ちは、恋や愛なんてそんな純粋で生易しいものなんかじゃない。言うならば、きっと独占欲。おもちゃをとられた子供のように癇癪を起こし、誰にも触れさせないようにそっと箱にしまいこんでしまうのと同じだ。
「じゃあ逆に。もし俺が鬼道を閉じ込めたいと言ったら?」
「それは、嫌だな」
「うん、そう言うと思った」
「……でも、」
「でも?」
悪くはないかもしれない、だなんて思っている自分がいる。
佐久間に閉じ込められて、嫌だと思うのに、そうすれば佐久間は一生自分を想ってくれるのだろうか、と。
佐久間の所有物のように自分の思い通りにはならないその世界で生きていけば、佐久間の気持ちを永遠に自分のものにできるのだろうか。もし、できるのなら、それもいいのかもしれない。
俺が何より恐れるのは、佐久間が離れていくことで、俺が望むのは今の佐久間の想いが変わらないことだから。
「ふっ…戯れ言だったな。忘れてくれ」
俺は思ったよりも重症らしい。
こんな馬鹿げたことを考えるなんて、本当に自分らしくない。
もうこれ以上言うことはないと、口を閉ざした。
「……鬼道、俺はお前に閉じ込められてもいいと思うくらいお前が好きだ。それだけはわかってくれ」
そう言って、悲しげに微笑む佐久間の笑顔に、俺は何も返せなかった。
佐久間が何を考えているのか俺にはわからない。けれど、それは佐久間だって同じだ。俺が何を思ってあんなことを口にしたのか、佐久間にわかるはずはないのだ。
心の中で渦巻くどす黒い感情を制御するのは案外容易いが、いつしかそれが大きく膨らんで抑えきれなくなってしまうのが怖かった。
そうなる前に、俺が繋いでしまった佐久間の鎖を解かなければ。離れないのは佐久間の方で、離さないのは自分自身なのだから。
「なぁ、鬼道」
「ん?」
「俺は、お前を閉じ込めたいよ」
「……そうか」
佐久間に甘え、依存し、本当に縛られているのは自分だと、そう思い知るのが嫌だった。
受け入れはするが、決して返すことのない気持ちを持て余して、俺はこれからもひたすらに向けられた愛情へと身を委ね続けるのだろう。
佐久間の想いが不変であることを願い、醜い感情に侵食されながら、俺はまた、佐久間を閉じ込めたいと、そんなことを考える。
世界でふたりぼっちになる日まで