「――二度と合戦場には来ないで下さいね」

へらへらと笑う彼に釘を刺しておいた。
何度注意しても聞かない彼にとっては、今更意味もないのだろうけど。

「……やっぱり、迷惑、でしたか…?」

飛び交う合戦場にて迷惑だと言った利吉に、迷惑って誰にですかと聞いてきた口は今、意外にもたどたどしく言葉を紡いでいる。

「…迷惑、と言ったでしょう」

はぁ、と業とらしく溜め息を吐けば、忍者には到底向いていない華奢な身体がびくりと揺れた。

人の迷惑を省みないで向こう見ずに行動するくせに、唐突に落ち込んでみせたりする。
一生懸命な姿は危なっかしくて放っておけないのだ。
守ってやりたい、とかそんな殊勝な気持ちではない。
目を離したら最後、彼にどんな危険が降り懸かっているか、気が気じゃなくて。想像以上にドジっ子気質な彼は守ってあげなければならないから。

ちらちらと利吉に視線を投げかけてくる小松田に何だときつく睨めば、恐る恐る口を開いた。

「ど、どうしても、利吉さんに会いたかったから……」

続いた台詞に気力が抜けた。ただただ、呆れ返るばかりだった。
ごめんなさいと素直に謝ってしまえばいいのに。無自覚に可愛いことを言うから質が悪い。

「…小松田君!」
「はいっ?」

重々しい空気から抜け出すために声を張り上げてうなだれてしまった彼を呼ぶと、俯いた顔を勢いよく上げてこちらを見上げてくる。
二つ程しか変わらないはずなのに、その表情はとても幼く見えた。

「何ですか利吉さん…?」

子犬のようにふるふると震わせた身体はとても細くて、これでよく忍者を目指しているものだと利吉は感心する。

「……さっき私が言った、学園から出てはいけない、というのは無しにしてもいいです」
「……利吉さん」

ひとつ咳ばらいをして、外出許可を出した。
知らず知らずの内に危険に巻き込まれて、その都度助けていたら、こちらの身が持たない。だからもう忍術学園から出るな、と言った。けれど、いくら小松田でもそれはさすがに可哀相だろう。
いちいち外出どうのこうのと話さなくてはいけないなんて、自分は彼の保護者か、と。そう思わなくもなかった。
そんな自分の状況に呆れつつも、言葉を続ける。

「……もし、私に会いたくなったら、会いに来て下さい。……ただし――」

――合戦場には来ては駄目ですよ。
眉間に寄せた皺を解いてそっと笑みを浮かべれば、目の前の顔はぱぁっと晴れやかになった。ころころ変わる小松田の表情は興味深く、本当に目が離せない。

「はい…!」

頭が取れてしまうんじゃないかと思う程の大きな頷き。
とりあえずこの話はもう止めだ、と一息吐いた利吉は自身の甘さに自己嫌悪した。
何度自分に迷惑が掛かろうとも、幾度となく小松田に激昂させられたとしたって、結局は許してしまうのだ。
つくづく自分は甘いと思う。
この年下の彼に振り回されて、まともに手綱を操ることも出来ないのだから。
そして、それを本気で嫌だと思っていない自分がいるのも確かだった。

数秒前まで青筋を浮かべていた顔は何処に置いてきたのやら。
上機嫌に鼻歌まで奏でていて、もう表情が曇ることはない。
またひとつ溜め息が零れた。
呆れのそれではなく安堵の溜め息。
やっぱり君には笑顔が似合う。



溜め息の数=君の笑顔





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