僕は、恋をしている。
「おーい、輝くーん」
大きくて黄金色に輝く瞳と視線が交わった。
いつ見ても僕の目には、彼がきらきらと一番星のように輝いて見える。
瞳だけじゃない。癖っ毛のくすんだ青も健康的な肌の色も、全てが僕にとって鮮やかに映った。
「またこんなところで昼飯かよー」
「うん」
ぽかぽかと太陽が程よく辺りを照らす中、僕はひとり屋上にいた。
最近は、滅多に人の来ないこの場所で昼食をとるのが日課になっている。
すっかり聞き慣れた少し高い声が、鼓膜に心地よく響く。隣に腰掛けた狩屋くんが、呆れ気味に僕に話しかけた。
「輝くんさークラスに友達いないの?」
「えっいるよ?」
「じゃあ、べつにこんなところで一人寂しく昼飯食わなくてもいいんじゃねーの?」
「ああ、それは……」
「ん?」
「ううん、なんでもないよ」
君を待ってた、なんて恥ずかしくて言えるわけがない。
狩屋くんがたまにこうして、ひとり屋上で過ごすことがあると知ったのはいつだっただろう。
ある日、たまたま気分転換に、屋上に足を運んだ僕は、狩屋くんの姿を見つけた。次の日も、さらに次の日も、そしてまた次の日も、時間はぱらばらだったけど、狩屋くんはいつもその場所にいた。
それから僕は、毎日のように昼休み開始のチャイムが鳴ると、屋上に行って昼食をとった。狩屋くんが屋上に来てくれることを願いながら。
「まぁいいや。あ、サンドイッチ余ってんじゃん。一個ちょーだい」
「いいよ、はい」
「ん」
わざと一個残しておいたサンドイッチが、役に立った。すっと口元に差し出せば、狩屋くんは当たり前のようにそれを口で受け取った。
どきりと胸が高鳴って、はっとして狩屋くんを見てみると、やっぱりいつもと何も変わらない表情でサンドイッチを咀嚼している。
こういうの、恋人みたいだな、なんて意識しているのは僕だけみたいで、少し落胆した。
「あー、もう教室に戻らないとな」
そう言って彼が弾みをつけて立ち上がったのと同時に、予鈴が鳴った。
昼休みは、いつもあっという間に過ぎてしまう。名残惜しさを感じながら、広げたお弁当箱を片付けていく。そろそろ戻らなければ、次の授業に間に合わなくなる。
お尻についた砂埃をぽんぽんと払ってから、狩屋くんは、ほら、と僕に掌を差し伸べてきた。
「……輝くん?行かねえの?」
太陽が丁度真上にあって、彼を照らしている。眩しくて、腰を下ろしたままの僕は思わず目を細めた。
どくん、どくんと未だに鳴り止まない心臓が、さらに大きく鼓動を打っているような感覚に襲われる。
僕の位置からは逆光でほとんど見えなかったけれど、なかなか手を取らない僕を不思議そうに見つめる彼の様子がなんとなくわかった。
「ねぇ、狩屋くん、」
好きだよ、と。
どうしてか、原因は分からない。ふと、伝えたくなって、ほぼ無意識に名前を呼んでいた。
彼は首を傾げて、なんだよとぶっきらぼうに、僕が何を伝えようとしているのかも分からずに、言葉を返す。
クラスメイトからの昼の誘いを断ってまで、僕が毎日ここに来る理由。
それは、君に会いたいからなのだと。
本当の気持ちを伝えてしまったら、君はどんな表情を見せてくれるのだろう。
気持ち悪いって軽蔑するのだろうか。それとも、冗談だろって笑われてしまうのだろうか。
でも、それを知るにはたぶんきっと、まだ早いと思うから。
「……ううん、やっぱりなんでもない」
「またかよ!」
「えへへ、じゃあ戻ろうか」
結局は何も言えないまま、差し伸べられた手を掴むことしかできなかったんだ。
きみが傍にいる幸福を噛みしめた