※風鬼前提の佐久→鬼です
※風丸さんは出てきません
※鬼道さんは風丸さんに性的暴力を受けています
※報われない佐久間が書きたかっただけの突発文
※続きません
※以上が許せる方のみどうぞ








「すまない、佐久間」

白い肌に残る打撲傷や鬱血の痕が痛々しい。
ユニフォームに隠れ、見える箇所は最小限に留まっているが、きっと身体中にそれは広がっている。
練習中に倒れた鬼道を、医務室まで運び、一息ついた佐久間は、ちらりと覗いた無数にある傷跡を一瞥して、顔をしかめた。
鬼道はベッドに横たわり、申し訳なさそうに佐久間を見上げる。

「……鬼道さん、つらくないんですか」

つらくないのか。その問いの意味を、関わる人間以外が耳にするならば、純粋に彼の体調を気にかけてのものだと受け取るだろう。
しかしこれは、風丸との関係を続けていることに対しての問いかけだ。
上手く隠していたところで、付き合いの長い佐久間には意味がない。
鬼道もそれを察したのか、少し考える仕草をしたのち、ゆっくりと口を開いた。

「辛くない、といえば嘘になるな」
「っそれなら…!」

鬼道と風丸は恋人同士ではない。言うならば、セックスフレンドに近い関係。佐久間はそう認識している。
もし無理矢理行為を強いられて、貧血と寝不足で倒れてしまう程に身体を酷使され、痛め付けられているのなら、そんな生活から、彼を救い出してあげたかった。
しかし、鬼道の話ぶりを見る限り、そう簡単な話ではないらしい。

「……俺は思うんだ。あいつの方が、きっと俺よりも……もっとつらい」
「ッ……だからって貴方がこんな目にあわなくても、」
「俺は、風丸になら何をされても構わない。たとえ、今以上に傷つけられたとしても俺は風丸を責めない。俺は……これが幸せだと、思えるんだ」
「……そんなの、間違ってます」
「……あぁ」
「貴方は、っおかしい…!」
「……そうだな」

自嘲気味に微笑んだ鬼道に、佐久間はぎり、と歯噛みした。
幸福だと感じることができるのなら、何故、こんなにも辛そうなのか。
合意の上だとしても、鬼道が風丸から酷い仕打ちを受けているのは、彼の様子を見れば、一目瞭然だ。
今にも消えてしまいそうな目の前の存在は、本当に儚く散ってしまうのかもしれない。そう思えるくらいに、今の鬼道は身体的にも、精神的にも危うい。
今までずっと見てきた佐久間だからこそ、鬼道の異変に気付くことができたのだ。
もうこれ以上、彼が傷付き、心身共に衰弱していく様は見たくなかった。

「……お前みたいな奴を、好きになれば良かったのかもしれないな」
「……っ!」

独り言のように零れた言葉は、佐久間の内に秘められていた想いを溢れ出させるには、十分だった。
佐久間は、呼吸をするのも苦しそうな彼のことなど構わずに、その華奢な身体を引き寄せ腕に抱いた。
掻き抱くように、回した腕により力を込めると、骨の軋む音がする。

「じゃあ、好きになってください、よ……」
「佐久間…?」
「あいつなんかやめて、俺を好きになったらいいじゃないですか…!」

抑えきれずに、佐久間は捲し立てるように叫んだ。
一方的に伝えたそれは、一度として伝えたことのない想い。言葉にしてしまったら、築いてきた友情や信頼さえも失ってしまいそうで、傷付き壊れていく彼の姿を見ながら、口にするのを恐れ、躊躇い続けたものだった。
やめろ、これ以上何も言うな、と制す自分がいる。けれど、もう遅い。
次から次へと溢れ出す想いは、悲痛な程に切なく響く。

「俺は、鬼道さんが好きなんです」
「佐久間…」
「俺は、ずっと鬼道さんが好きでした…っ、貴方を守りたかった…なのに…!」

いくら見ていられないくらいに傷付けられ、憔悴しきっているとはいえ、鬼道自身が望む限り、物理的に引き離し、風丸との関係を終わらせることは自分にはできない。
いつか誓った、彼を守りたいという気持ちは変わらずに、けれど、自分にはどうすることもできないのだと何度も思い知らされて、不甲斐ない自身に嫌気が差す。

「……ありがとう、佐久間」

鬼道はそんな佐久間の心を知ってか知らずか、感謝の言葉を口にした。
見たことのない柔らかな微笑みに佐久間は戸惑った。
ありがとう。それは佐久間が鬼道へ向けた感情についてなのか、それとも守りたいと言ったことに対してなのか、どちらか分からなかった。
ただただ、佐久間は鬼道の瞳を見つめ返した。
紅い瞳が逸らされることなく、真っ直ぐに自分を映している。それだけで、こんなにも身体が熱くなる。

「でも、俺はお前の気持ちには応えられない」
「………しってますよ」

返ってくる答えなど、最初から分かっていたはずなのに、面と向かって言われるのは、やはり辛い。
鼻の奥がつんとして、視界が揺らぐ。震える背中を、慰めるように鬼道の掌が優しく撫で、涙腺は崩壊寸前だった。
そして堰を切ったように溢れだした涙が、頬を伝い鬼道の肩を濡らす。涙さえも、もう抑えられなくなってしまった。
止めどないそれに、肩口に顔を押し付けていると、愛しい人の体温と匂いが佐久間の五感を刺激する。できることならこのまま拐ってしまいたいと言わんばかりに力強く抱きすくめ、そこで佐久間は初めて知ったのだ。
抱き締めた細い身体が、自分と同じように微かに震えていることに。
報われることのない想いを抱くことのつらさを、身をもって経験してきた佐久間には、鬼道の気持ちが痛い程よく解る。
しかし、決して叶わないと知りながら、身体を捧げ、見返りさえもを求めずに、相手の為ならば自分が傷付くこともい問わない、そんなことが幸せだと言えるのだろうか。
いつかは限界が来てしまう、有り得るはずのない偽りの幸せ。
それは、彼の心にどれほどの傷を与えてきたのだろう。
自分の何十倍も傷付き、誰よりも泣くのを我慢している彼を前にして、堪え性もなく涙を流している自分が本当に情けない。

「……俺は、あいつが好きなんだ」

微かに涙の滲んだ瞳を細め、柔らかく笑った彼の顔がすごく綺麗で、目が離せなかった。
嘘偽りのない言葉。それだけが今の彼を支えているのだと思った。
いつだって、佐久間達を導いて、まるで神のように絶対的な存在であった彼は、とても弱く、けれど誰よりも強い。

「っ、貴方は、本当に……」

やはり涙は止まらずに、先の言葉は続かないまま。
心が痛い。けれど彼の痛みに比べたら、きっと何てことないのだろう。
震える掌で、腕で、全身で、彼が一人で抱えた苦痛が少しでも癒えるように、と願いながら、ぼろぼろの身体を佐久間は抱き締め続けた。



あなたの居場所になりたかった





title:秋桜

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