「らんまる」

ドアを開けると、可愛いペットが自分を出迎えてくれる。
ふわふわの耳を揺らし、ぱたぱたと駆け寄るその姿はまさに天使だ。
蘭丸は、羽のように軽い身体を腕の中に収めて、優しく抱き締めた。

「ただいま、拓人」
「おかえりなさい」

留守にしていたのはたったの数時間であるのに、まるで何年ぶりかの再会のように飼い主の元へと駆けよって、嬉しそうに微笑む拓人は、蘭丸の、この世で一番大切で、いとおしいペットだった。
うさぎは寂しいと死んでしまう、とよく言われるが、それは嘘らしい。けれど目の前のうさぎは、たぶん、きっと、死んでしまうに違いない。

「……帰りが遅くて心配したぞ」
「ああ、ごめん。帰りに三国さんに会ったんだ」
「三国さんに…?」

蘭丸は近くのスーパーまで夕食の買い出しに出かけ、帰り際に友人の三国に偶然出会った。そしてそのまま世間話をすること一時間。
いつもなら一時間程で買い物を済ませ帰宅するところを、すっかり遅くなってしまったせいで、不安で不安で仕方なかったのだろう。
拓人の瞳にはうっすらと涙が浮かんでいて、温もりを確かめるように頬を擦り付け、微かに震える身体が何よりの証拠だった。

「ほら、拓人の好きなやつ」
「……!」
「三国さんがお前に、ってさ」

ビニール袋いっぱいに入ったそれを視界に納めた拓人は、きらきらと目を輝かせた。
なんでも、三国は家庭菜園が趣味で、自分が育てたものをよくお裾分けしてくれるのだ。三国の育てる野菜は無農薬で、スーパーなんかで買う野菜よりも新鮮で美味しいと、この辺では評判だった。

「………ありがとう」
「今度、うちに三国さんが来たらちゃんとお礼言おうな」
「うん」

こくりと頷いた拓人に、大好きなにんじんを差し出せば、幸せそうに表情を綻ばせる。
ああ、なんてかわいいのだろう。
そうだ、今日の夕飯は拓人の好きなシチューを作ろう。

「拓人、腹は減ったか?」
「……少し」
「じゃあ今日も腕によりをかけて作ってやるからな」
「ん……楽しみにしてるよ」

身体を引き寄せ、緩くウェーブのかかった髪の毛に顔を押し付けて、大きく息を吸い込む。甘い香りが鼻孔を擽った。
頭を撫でてやると、気持ち良さそうに目を細める。
蘭丸は、その様子を眺めながら、かわいいペットの喜ぶ顔を想像して幸せに浸るのだった。





「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -