この関係を、恋人と名付けることができたならどれほど良かったことだろう。
いつからか、愛してるも好きも言えない、ただひたすらに身体を繋げて過ごすだけの日々を送っている。
恋人なんて甘ったるいものじゃない。これではセックスフレンドそのものではないか。
先の見えないこの行為をいつまで続ける気なのか、自分でも分からなかった。
けれど、このどうしようもなく不毛な関係に終止符を打つ勇気などなかったから、きっと、これからも終わることはないのかもしれない。
恋人と、そう呼んでいたのは随分昔の話だ。
好き、愛してる。
かつては通じ合ったはずの想いを抱いたまま、触れる指先を拒むことはできなかった。







「はぁ…っあ、あ!」

腰を揺すられて、鬼道は身体の奥に入り込んだ熱の塊が果てるのを感じた。
薄いゴム越しに伝わったそれは、絶頂の余韻にびくびくと震え、ダイレクトにその存在を知らしめる。

「大丈夫ですか、鬼道さん」
「ん……っは、ぁ…!」

息をつくのも億劫な程に酷使された身体が悲鳴を上げる。
終わりのない快楽を何度も与えられ、追い込まれ続けた鬼道はもう限界だった。

「んぁ…っ」

ずるりと体内に埋め込まれたものを抜かれ、やっとの思いで身体を弛緩させる。
暫くの間四つん這いの格好でいたせいか、手足は麻痺して感覚がない。
後ろに覆い被さっていた男が離れ、漸く全身をベッドに預けることができた。
体液で湿ったシーツの感触は素肌に不快感しか与えないが、疲労しきった身体では大して気にもならなかった。

「シャワー、先に浴びてきてください」
「……佐久間は、」
「俺は鬼道さんの後で構いませんよ」

ひどく義務的な声音で発せられる佐久間の言葉は、事後の甘さなどあったものではない。
鬼道は内心溜め息を吐きながら、バスルームへと向かう為、起き上がった。
その場に脱ぎ散らかしたままの服からしわくちゃになってしまったシャツを拾い、肩に羽織る。
フローリングについた足は覚束なく、ふらりと傾いだ身体を佐久間が支えた。

「おっと、やっぱり俺もついていきます。身体、辛いでしょう」
「っ……いや、いい。一人で行ける」

心配するくらいならもっと手加減しろ、と毒づいてやりたかったが、今更そんなことを素直に聞く男ではなかったので口を噤んだ。
佐久間の腕を振り払い、どうにか歩き出すけれど、足は鉛のようで、心までも重く感じてしまう。
満たされない想いを持て余して、愛など存在しているのかも分からないのに、延々と繰り返されるこの行為は、何とも言い難い虚しさを覚え、鬼道の精神すら蝕んでいく。

「……佐久間」
「はい?」

もうそろそろ潮時なのだろうと鬼道は悟った。
しかし、伝えようと決めた言葉は一度も言えた試しがない。
何度も何度も開きかけた唇は、吐息を漏らすだけで、いつも何も紡がれないままだ。

「私達は、なんなのだろうな」

今の鬼道には、そう問うのが精一杯だった。
消え入りそうなくらいに小さくなってしまった声は、常に気丈な鬼道らしくない。
視線を交わすことが怖くて、佐久間の顔をまともに見れずにいる。
些細なことでどうしようもなく動揺し、悲観的になっている自分は、こんなにも弱かった。


「………恋人、でしょう?」

そして返ってきたのは、望んでいた、たった二文字の言葉。
どうやら佐久間は、まだ鬼道のことを恋人だと思ってくれているらしい。
佐久間の出した答えに多少の安堵はするものの、それは苦しさを孕んで疑問だけを募らせる。

「そうか……」

それならば、何故好きと言ってくれないのだろうか。
少なくとも学生時代はうるさいくらいに、好きです、愛してますと訴えてきた佐久間は、今や優しく抱き締めることさえもしなくなった。
どうして。
弱い自分は、そう問い詰めることもできない。

「……シャワー、浴びてくる」

汗でべたつく身体が気持ち悪い。
とにかく今は、体液にまみれたこの身体を綺麗にしたかった。
このままでは、無駄な感傷に囚われ続けてしまいそうで、身体にこびりついた欲も、情けない感情も、全て洗い流したい。
弱気になってしまう女々しい思考など、自分には必要ないのだから。

「はい、鬼道さん」

鬼道は今にも崩れそうな自身を叱咤して、バスルームへと歩みを進める。
後ろから響いた佐久間の声は、やはりどこか冷たくて、心がないように思う。
けれど、それでもまだ、この男が自分を恋人だと言う内は、愛の見えない冷めきった関係でも、諦めたくはなかった。
まだ大丈夫だと、信じていた。





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