「マークの瞳はきれいだね」

寒気すらするほどの甘い台詞。
こんなこと言うのはあいつしかいない、と読み耽っていた雑誌から目を離して声のする方を見遣れば、案の定、予想通りの人物で。
イタリア代表、オルフェウスの副キャプテンであるフィディオ・アルデナは、イタリア男の名に恥じない所謂女タラシとも言うべき人種である。

「フィディオ…何でお前がここに」
「今日は練習休みなんだ。マークも休みだろ?」

何故フィディオが知っているのかは知らないが、ユニコーンの今日の練習は休みで久しぶりの休日だ。
フィディオも休みらしいということは、イタリアエリアとアメリカエリアは船を使えばそれほど離れてはいないし、暇潰しにきたのだろう。
せっかくのオフなのだから、のんびり満喫しようと思っていたのに、これでは全く心休めそうにないとマークは悟った。
ベッドに預けた身体を起こして、部屋を見渡してみるが、先程まで床に大量の菓子類を広げ、スナックを貪るようにして食べていたディランがいない。

「ディランは…」
「さっき一之瀬と出かけてくるって言ってたよ」

にこりと、そんな効果音が聞こえてきそうな笑顔にマークは思わずたじろぐ。
いつの間にかフィディオはマークの隣に腰掛けていて、その距離は50cmもない。しかも肩に回された腕に上半身だけをぐいっと寄せられて、目の前にはフィディオの端正な顔があった。
この間のつめ方は、さすがイタリア男と言うべきか。

「マークの瞳はきれいだね」
「……そういうのは、女に言ってやれよ」

この男の口説き文句にはもう慣れた。
しかし、これほどまでに真っ直ぐに見つめられては、どこか居心地が悪くてマークは目を逸らしてしまう。
けれど、マークの顎を捕えたフィディオの指先がそれを許してはくれない。

「きれいだよ」

深い青の瞳がマークを射ぬいて、元々近くまで迫っていたフィディオの顔がさらに近づく。
反射的に目を閉じれば、右の瞼にぬめる何かが触れた。

「食べたいくらいにね」
「……っ」

ぺろりと肌の上を撫でる感触に、瞼を舐められたのだと知る。
不覚にも動揺してしまい咄嗟に目を見開くと、フィディオは甘いキャンディでも食べた後のように舌なめずりをしている。
マークの翡翠の瞳を見据えた青は、まるで星の流れる夜空の如く輝いていた。



君の瞳に恋してる



お前の瞳の方が何万倍も綺麗だなんて、言えるわけがない。





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