「ねぇ、ヒロト」

流されるままにベットへと押し倒されて、ぼんやりと天を仰げば、赤と緑の世界が視界に広がった。
ヒロトの髪が頬を擽り、身をよじる。

「なあに、緑川」

ヒロトは首を指でなぞったり、差し入れた掌で脇腹を撫でたり、俺の肌の感触を楽しんでいるようだった。

「……俺のこと好き?」

ヒロトの視線と絡ませながら、抑揚のない声で問えば、ヒロトはいつもの笑みを浮かべて答える。

「もちろん」

予想していたそれに、心の中で何かがギシと音を立てた。
嘘つき。
本当は俺のことなんてこれっぽっちも想ってないくせに。
知ってる。俺だけが勝手に想っていて、ヒロトの視線は別の人へと向けられていることに。
緩みそうになる涙腺を叱咤し、必死に涙を堪え、平然を装う。
こんなことになるくらいだったら、いっそ嫌いだと言われた方がましだった。
拒絶されて、蔑んだ目で俺を見ればいい。気持ち悪い、そう一言、告げるだけでもいいから。
そうすれば、諦めることが出来たのに。
もう後には引けない。
ヒロトの腕の温かさを知ってしまったから。
偽りだったとしても好きな人に抱かれることは、とても幸せだった。満たされて、これ以上ないくらい、生きててよかったと思えた。
けれど、ヒロトは違う。
想い人は他にいるはずなのに。
何で俺を抱くの?
そんなこと聞けやしなかった。
たとえ、ヒロトの想いが別の人へと向けられていても、1%、ただそれだけでいい、俺に向けられているのなら。
愛されたくないのに、愛されたい。
抱きしめられたくないのに、抱きしめてほしい。
そう思う俺は本当に救いようがない。
ヒロトの指が俺の顎を捕らえ、さらに顔が近づいた。
キスの予感に瞳を閉じる。

「大好きだよ、緑川」

唇が触れる直前、囁かれたそれに吐き気がした。



偽りの愛だとしても





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