「豪炎寺さんの好きな人って誰ですか?」

俺はその人の目をじっと見つめた。
意志の強い眼差しから、目をそらしたくなかった。
彼は、何度か瞬きを繰り返してから、いつも通りの無表情で視線をこちらに向ける。

「どうしてそんなことを聞く?」
「……気になったからです」
「……そうか」

好きな人はいるんですか、と聞かなかったのは確信があったから。
けれど、彼は一切答えてはくれなかった。否定したり、はぐらかしたりするわけでもなかった。
彼なら必ず答えてくれるという期待すら、していなかった。
やはり、彼の表情は変わらない。
何を、考えているのだろう。
吸い込まれそうな黒い瞳は、見ているこっちが全てを見透かされているのではないかと、そんなふうに思ってしまう。
それでも、俺は彼の目を見つめ続ける。

「好きな人、か」

ぽつりと独り言のように発したそれを、俺は聞き逃さなかった。
直前まで俺を映していた瞳は、すでに違う方へと向けられている。
彼の視線は、目の前のゴールと、ある人物に注がれていた。

「豪炎寺ー!」

大きくて、眩しくて、まるで太陽のような笑顔。
彼は、見たことのない、穏やかで、優しい笑みを浮かべ、その光に微笑み返したのだった。






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