「ばれた?」
「おい不動…!鬼道に何飲ませてんだ!」
「別に少しくらいいいだろ。つか鬼道クンがそんなに酒弱かったとはねぇ」

お前も飲むか、と空き缶を片手に、不動はにやにやと意地の悪い笑みを俺に向けた。
そんなものどこで入手してきたんだとかまだ酒を飲む歳じゃないだろうとか色々突っ込みたい所はあったが、今はそんなことよりも鬼道をどうにかしなくては。

「さくま」
「き、鬼道っ」
「ハッ良かったじゃん。いつもつれない鬼道クンに迫られて」
「うう」

自らキスを迫ってくるなんて、いつもの鬼道だったらするはずがない。これは言わば絶好のチャンスなのだろう。
だからといって酔った勢いでなど、絶対嫌だった。
アルコールのせいだとはいえ、いくら好きで堪らない相手から言われたとしても、想いを伝え、ちゃんと気持ちを通じ合わせた上でのキスが一番いいに決まって――


「………キス、してさくまぁ」


……ああ、うん前言撤回。
キスするべきか否か?
もちろん答えはイエスだ。
酔っているからこそ言える本心という可能性も十分に有り得る。
もし本心じゃなかったとしても、後々、素面に戻った鬼道に怒られようが、シカトされようが、もう何だっていいじゃないか!

開き直った俺は、自分の意志の弱さには一切気にも留めず、決心を固めて瞳を閉じた。
やっと念願のキスができるんだ。
まさかこんな形でするとは思ってなかったけれど。

「……ってあれ?」

期待に胸を膨らませていると、ふいに鬼道が跨がっていた下半身からスッと人の重みが消えた。

「へ?………っ、な…な……!」

突然、目の前から姿を消した鬼道を探して視線をずらせば、俺の視界に入ったのは、鬼道が憎きモヒカン野郎と口付けを交わしている姿で。

「んっふぅ……ふど、う」
「っはぁ……あ?なにこれ、きどうくん?は?」

唇を離した鬼道は、はふと熱い息を漏らした。
鬼道がキスしてきたことは不動も予想外の展開だったらしく、顔を赤くしたり青ざめたりしている。

「な、ななななんで…!」
「だって、さくまはキスしてくれないだろ…」

状況が理解できないまま抗議の声を上げれば、むうと頬を膨らませた鬼道が、潤んだ瞳で俺を睨む。
ああ拗ねた顔の鬼道も可愛い。いや、そういう問題ではなく。
後悔、その二文字が俺の心に突き刺さった。
こんなことになるなら、あれこれ悩まずにさっさとキスしとけばよかったんだ…!
今更後悔してももう遅い。
こうなってしまった今、怒りの矛先は、全て俺と鬼道の邪魔をした不動へと向けるしかないのだ。

「…ゆっ許さん不動…!きどう、いや、鬼道さんの唇を奪いやがって…っ」
「はぁ?奪ってねーよ!むしろ奪ったのは鬼道クンの方だろーが!!」
「うっうわあああん鬼道さあああん」
「うわっ泣くなきめえ!」
「だいたいお前はなぁ、いつもそうだ!俺の邪魔ばっかり…っくそこのハゲが…!」
「ああ!?」


「ん……ねむい」

醜い言い争いを続ける俺達を余所に、どこか満足気に微笑んだ鬼道がいつの間にやら寝ているのに気付いたのは、それから数分後のことだった。






「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -