鬼道がおかしい。
「さくま……」
なんだこの状況。
一体、何が起こってるんだ。
「………さくま、ちゅーしてくれ」
「はっはいいいいいい!!!??」
鬼道の可愛らしい口から発せられた言葉に俺は動揺を隠せなかった。
鬼道が、ちゅー?
有り得ない。
そうだ、これは夢なんだ。きっと、いや絶対夢に違いない。
頬を桃色に染め、真っ赤な瞳を潤ませた鬼道が俺の上に乗ってキスをせがんでいるだなんて。
「さくま…してくれないのか…?」
「……〜っ!!」
なんだこれなんだこれなんだこれ。
あまりの事態にフリーズしてしまった俺は、ぴくりとも身体が動かせない。
何もしてこない俺に焦れたのか、鬼道は眉尻を下げてさらに身体を密着させてくる。
「さくまぁ…」
う、上目遣いなんて卑怯だぞ鬼道!
舌足らずに名前を呼ばれ、潤んだ瞳で見つめられてしまえば、なんかもうどうにかなってしまいそうだ。
鬼道の顔が近い。
ごくりと生唾を飲み込む。
本当に、触れても、いいのだろうか。
残り数センチで唇が触れる距離に、理性が切れかけたその時、ふわりと甘くきつい匂いが漂った。
「はっ……も、もしかして鬼道、酒飲んだのか…?」
間違いない。
これはアルコールの匂いだ。
熟れたような真っ赤な顔も、今にも涙が零れそうな程にゆらゆらと揺れる瞳も、服越しに伝わる鬼道の火照った身体も、酒に酔っているとなれば全て頷ける。
「のんでない」
「嘘だろ!?」
「む……のんでないものはのんでない」
「あー…じゃあ誰かに飲み物とかもらわなかったか?」
「ああ、それならふど…」
「オイコラ不動てめぇぇええええ!」
原因はあのモヒカン野郎か!!
思いっきり不動の名を叫んでやると、部屋の外でずっと聞き耳をたてていたらしい不動が、ドアの隙間からひょっこりと顔を出した。