※死ネタ
「鬼道さん、鬼道さん」
何度いとおしい名前を呼んだって、彼が目を覚ますことはもうない。
ぽろぽろと止まらない雫は重力のままに落ち、横たわった彼の肌を伝って、跡を残した。
「きどうさん……」
涙で濡れた彼の頬にそっと触れる。
今もなお、生きているかのようにほんのりと感じる体温と滑らかな感触が嘘のようだった。
「……お願いだから、目を開けてください」
軽く身体を揺すれば、本当に目を開けて、いつものように笑いかけてくれるかもしれないと、そう思った。
泣きじゃくり、だらしない顔をした自分を見て、仕方ない奴だなと呆れたように苦笑する彼を夢見た。
「きどうさん……きどうさん、きどうさん」
応えなどあるはずないのに、幾度となく繰り返す。
名を呼ぶ度に、涙が滝のように溢れて、彼の顔をちゃんと見ることができなかった。
「……ねぇ鬼道さん、俺まだ貴方に言ってないこといっぱいあるんです……鬼道さん」
いつだって、そうだ。
彼は、いつも自分を置いて何処かに行ってしまう。
大切な何かを伝える前に、自分の届かない遠くまで行ってしまう。
そして、自分はその後ろ姿を何度でも追い続ける。
辿り着けなかった彼の隣に、縮めることのできなかった距離に。
自分は、今度こそ追い付かなくてはならないのだ。
だって、まだ何も伝えていない。
このまま終わってしまうわけにはいかないのだから。
「だから、俺も一緒に――」
貴方の元へ。
「………あいしています」
ずっと言えなかった愛の言葉を、伝える為に。
きっと、これからも。