うっすらと覚醒していく意識の中重い瞼を開くと、あったはずの温もりが消えていた。
ついさっきまで二階堂の腕にもたれ掛かり、眠りについていた可愛い教え子は、ベッドの端に腰掛けてワイシャツの釦をひとつひとつ丁寧に閉めている。

「ごうえんじ、」
「……はい」

日に焼けた項を凝視しながら何とはなしに名を呼べば、豪炎寺はちらりとこちらを見た。
昨晩は年甲斐もなく張り切り、たくさん泣かせてしまったせいか、涙の跡は生々しく、瞳は充血して、声は微かに掠れている。
まだ僅かにあどけなさの残る彼に、何てことをしてしまったのだろうと、後悔や罪悪感に苛まれるのは一度や二度のことではない。
立ち上がった豪炎寺は、ワイシャツ一枚という何とも男のロマンをくすぐる姿で、気だるげに首を傾げる様からは強烈な色香を放っていた。

「……お尻まるみえだぞ。パンツ、穿かないのか…?」

ごくりと生唾を飲んで、露にした下半身を指差して問うた。
機嫌悪そうに眉間にしわを寄せた彼は、恨めしげな視線を二階堂へ向ける。

「……監督が使いものにならなくしたんでしょう」

ベッドの下には昨夜剥ぎ取るように脱がした服がそのまま散乱していた。中には、色々な体液で汚れてしまった下着も混ざっている。
二階堂はそれを拾い上げ、まじまじと眺めた。

「や、やめてください監督…!」

信じられないとでもいうように目を丸くした豪炎寺は慌てて下着を奪い取ろうとベッドへ乗り上げる。
しかし、バランスを崩した未成熟な身体は二階堂の腕へと納まった。

「おっと…大丈夫か?」
「……っ」

腰に手を回し、わざと行為中を思わせるような撫で方で敏感な肌に触れてみると、ふるりと身体を震わせた彼は、吐息を漏らして切ない表情を浮かべた。
あんなにも清廉で無垢であった少年は、今や大人の情欲を煽り、魅惑してしまう。
それを自分が変えたのかと思えば、ほの暗い感喜すら覚えた。

「……すきだよ」

ぽつりと呟くようにして耳元に囁けば、目を見開いた豪炎寺はふいと顔を背ける。
みるみるうちに頬は紅潮し、耳まで真っ赤に染める初々しい彼が愛おしい。
いつからこんなにもたまらなく好きになってしまったのだろうか。
もう、忘れた。
気付いた時には、穢れのない真っ直ぐな瞳に見つめられることに、どうしようもない喜びを感じていたのだから。

「………か、んとく」
「ん?」

顔を胸に埋めていた豪炎寺が、二階堂の背へそっと腕を伸ばす。
ぎゅっとしがみついて、甘えるように頬を擦り寄せる彼は、ひどくこどもらしく見えた。

「おれも……好きです」

今にも消え入りそうな程の小さな声は、脳髄まで甘く響き渡る。
二階堂は、腕の中の存在をいとおしげに見つめながら、こうして共にいられる幸せを思う存分噛み締めた。






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