(蘭→拓の片思いネタ/乙女な拓人) あれ程吹き荒んでいた涼風はいつしかなだらかに収まり、もう直今期が終わる様を何処となく形容しているように思えた。午後の授業が始業すると共に、窓際の生徒によって引かれた一箇所のカーテンをもう既に陽射しは通り越し、それは少しずつながら、今煌々とした橙に変わりつつある。 そんな中、教室の奥に神童を見つけた。 教室に拡がる柔らかな光線を窓際の彼は植物の如く燦々と浴びながら、どういう訳かその首を夕空に傾けていた。 「外に何かあるのか?」 入口の前で一旦立ち止まり、一呼吸置いてからぽつりと話しかける。くるりと大きな黒目を動かし此方を見据えた彼は、それからにこりと微笑を湛えた。ふる、と揺れた灰色の綺麗なウェーブは色相環の対称色のように、宛ら橙の夕陽によく映えていると思った。 「星を見ていたんだ」 「…星?」 言われてから、俺ははてと首を傾げた。一体どういう事なのか。先述の通り、今はまだ太陽が沈みかけの夕刻であるというのに。 月は昼間でも出ているとはよく言うし見えないことも無いのだが、増してやそれよりも遥かに小さな星など、果たして見えるものなのか。否お節介ではあるが、それ以前に今よりももう少しばかり後に見た方が、それはそれはくっきりと夜空に映えて綺麗だろうに。彼の意図がよく分からずに、けれども、不思議と見てみようかといった衝動に駆られる。俺は神童の側に歩を進ませ、一緒になって夕天を仰いだ。 「星なんて、見えるのか?」 「ああ、ほらあそこ」 彼が指差す先には、確かに橙の中で薄らと瞬く一つの星があった。ぽつんとしたそれは、まだ見えていない周りの星よりも一足先に登場し、数多の星の中では一際輝いているように思えた。 「あれは、北極星っていうんだ」 すっかり気を取られていた俺に、神童は続けて言う。あの星は地軸の延長線上にあり、一年中微動だにしないのだと。数ある星の中で、一番輝いているのだと。 俺は星なんてものには今まで全くの興味を持たなかったから、彼が言う初聞のそれに終始ふんふんと耳を傾けていた。 ふと神童の横顔を窺うと、彼はさながら小動物の戯れでも見ているかのような眼差しで、その北極星とやらを見上げていた。なんて顔をしてるんだと、思わずその横顔に見惚れてしまう。俺の視線に気が付いたのかふいに首を傾け、なんだと言った彼の瞳には、もう既に先程の慈愛に満ちた淡い色はおろか、余韻すらも残ってはいなかった。心の内がちり、と痛むのを感じながら、俺は無理に笑って言う。 「なんか乙女だなあ、神童って」 「…お前にだけは言われたくない」 「はは、確かにな」 「だろ、」 言葉の応酬を幾らか繰り返してから、二人してふっと微笑った。あれ程煌々としていた橙は、もう少しで藍色に飲み込まれようとしていた。 屑星の誘惑はなだらかに昏迷、 (それだけのことがこんなにもぼくをさみしくさせる) ---------- 「R.D.is torso」の都悸さんから拍手フリー文としていただいた蘭→拓です お礼文がお持ち帰りフリーでしたので、 つい……・ω・` 乙女な拓人が可愛いくて仕方ないです! 蘭ちゃんも可愛い……はわわ ごちそうさまですっ `・ω・´キリッ |