短編 | ナノ


▼ 雨白



新雲と雷門の試合の後の設定


雷門との試合は負けてしまったけどすごく楽しかった。あんなに楽しいサッカーを、続けられないなんて耐えられない。もっとやっていたい。僕はもっとサッカーに触れていたいと痛感した。
無理が祟って、試合後僕はすぐに病院に戻ることになってしまった。怒られたりどやされたりなんだかんだあったけどとりあえずベッドで安静にしていなさいと叱られてしまった。はぁい、と返事をして素直にベッドに転がった。
窓から見える景色はもう何度も見たもので、いい加減飽きていた。なんだか怠くてテレビをつける気にも雑誌を開く気にもなれない。もう寝るしかないか、と目を瞑ろうとすると、ドアをノックする音が聞こえた。

「どうぞ」

僕が声をかけるとドアがガラリと静かに開いた。そこには珍しい人物が立っていて思わず目を見開いた。

「…白竜?」

その名を呼べばフン、と笑って僕の元に近付く。久しぶりに見るその姿に眠ろうとしていた僕のテンションはみるみる上がった。

「久しぶりだな雨宮」
「ほんとに久しぶりだね!嬉しいよ僕に会いに来てくれたの?」
「お前が倒れたと聞いてな。全く肝が冷えたぞ」

そう言いながら腰掛ける白竜は以前より表情が柔らかくなったような気がした。
白竜とはシードの時に少し話したことがあった。性格が真逆なこともあって最初は気が合わなかったけど話していくうちに段々とお互いのことを理解できていった。
プライドが高くて無茶苦茶やったり無謀なことをしたり高飛車な態度をとったりするけれど本当は誰よりも向上心の塊で自分に厳しくて他人に思いやりが持てる優しい人なのだと。今日もこうやって疎遠だったのに僕のために来てくれた。

「本気で戦ったんだ。でも、ダメだった」
「…そうか」
「今日試合に勝って、新雲を優勝させる手助けをしたかった。もし手術が失敗したしてサッカーを諦めないといけなくなっても割り切れるように全力で挑んだのに、勝てなかったんだ。」
「…」
「雷門は強いね…負けてしまったのに、楽しかった。僕まだサッカーがやりたいんだ。やりたい。」
「そうしたいなら手術を受ければいい。必ず成功すると俺は信じている。俺もお前ともう一度サッカーをしたい。」
「……」

その通りなんだけどね。まだ覚悟が出来ていない自分がいるんだ。
急に黙り込んだ僕を見ておろおろしだす白竜が大丈夫か、と顔をのぞきこんだ。

「何か…まずいことを言ってしまったか?」
「いや、白竜の言う通りだよ。何も間違ってない。僕も白竜と戦いたいよ…一緒にサッカーをしたい…」

でも。

「でも、でもね…怖いんだ。内心ね、またサッカー出来なくなるんじゃ…一生サッカー出来なくなるんじゃ、って怖がってるんだ。そうしたら白竜ともうサッカーできな」

途中から涙声で何を言っているのか自分でもわからないくらい何もかも、頭の中もごちゃごちゃだった。それを包み込むかのように白竜が僕を抱きしめた。

「は、白竜」
「大丈夫だ。その時は…もしそんなことがあるなら、俺も一緒に死んでやる」

体を離して目を見つめて言われる。真剣に言ってるのだとわかった。そのあとまたぐい、と引き寄せられて抱き締められた。
ぶわりと涙が溢れ出して白竜の肩を濡らしてしまう。止まって欲しいのに、目を開けたまま涙が次から次へと零れ出して止まらない。
ああ、そうか。俺は一人で、独りでサッカーが出来なくなっていくのが、天馬たちから遠ざかって行くのが嫌だったんだ。

「ぅっ、…っ白竜、白竜っ」
「大丈夫だ。お前は独りなんかじゃない」

優しい声音で宥めるように背中を摩られて、子供扱いされてるみたいだな、と思ったけどしばらく離れることが出来なかった。




白雨っぽくなってしまった




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