短編 | ナノ


▼ 五伏

五島くんの過去が少し捏造されてます




なんで俺が。正直それしかない。こっちは処理しないといけない仕事が沢山あるのになんで俺が。
一つだけ俺に処理できない資料があった。副長にどうすればいいか問うと五島に渡せとだけ言われた。後でほかの隊員に渡させようと思ってわかりました、と答えると後ろからやってきた室長に君、今ほかの隊員に渡させようと思ったでしょう?と見抜いた。うざい。なんでこんなときばっかり神出鬼没なんだこの人は。
そうですけど、と答えると室長はダメです自分で渡しなさいとニッコリ笑って言った。少しイラついてなんでですか、と聞くと君は面倒なことを避けすぎですせめて隊員との交流くらいちゃんとしましょうね。と言われた。
ここまで言われたら嫌とも言えずハイと素直に従うしかなかった。そして副長に聞くからには五島は今日は非番だと言うじゃないか。クソ面倒くさい。五島は何も悪くないことはわかっているが殺意が湧いてくる。

とは言っても単に面倒くさいからという理由だけでは無い。というのも俺は五島に少しだけ苦手意識を持っていた。ほかの隊員はまあどうどもいい部類に入っていて五島もその中にいるのだがほんの少しだけしか交流したことないが苦手だった。それは多分俺と何か似てる部分がからだろうと思っている。
ストレインが関わる事件、他のクランズマンとのいざこざ、色んなことがあったが俺の中では比較的どうでもよかった。
五島に対して思うようになったのはついこの間で、少し面倒な案件があった。自分に与えられた仕事をしながらふと他を見てみると皆一生懸命に仕事していて、だが五島だけは違った。
きちんと仕事をしていることはしているのだが、目が他と違った。まるで何か、どうでもいいと思っているようなそんな目だった。その姿を見てちゃんとしろと怒鳴りたくなるような衝動に駆られたが、それではなんだか自分を棚に上げているようで癪に障ったためやめた。立場は違えど自分はこんな風だったのか、そう思うと少しだけ居た堪れないような、なんとも言えない気持ちになった。

面倒なことを後回しにするのは性に合わないと思い五島の部屋に向かう。明日渡すのを忘れてしまったらそれこそ面倒だ。さっさとコレを渡して立ち去ればいいだけだ。
ドアをノックして少し待つと部屋の中から怠そうな声ではい、とだけ聞こえた。寝ていたのか。もう14時だというのに。非番の日は意外にだらけた生活をしているのだな、とまたそういうとこも少し自分を見ているようでイラついた。

部屋の中から何故かズタンガタンという音が響いた後、ドアが開いた。中から出てきた五島は少し驚いた表情をしている。一方の俺も少し驚いた。髪の毛を下ろした五島はこんな感じなのだなと少し驚いたのだ。長い前髪が少し左目を隠している。

「どうしたんですか、伏見さん」
「あ、ああコレ、俺じゃ処理出来なくて、」

と綺麗に綴れた何十枚かある資料を五島に渡すと、ペラペラと捲りながらああこれね、と呟き、

「わかりましたやっておきます。わざわざありがとうございます」

そう言ったあと、何か思いついたような顔をした。

「そうだ伏見さん、何か食べていきます?昨日実家から大量の果物が届いたんですよ」
「…なんで果物」
「うち実家が農家やってて。定期的に野菜とか果物とか送られてくるんですよ」
「へえ…」

どうでもいいな、と思う。それに仕事が溜まっててそれどころではない。が、なんとなくパイナップルが食べたい気分になったのでダメ元でパイナップルがあったら乗ろうと決めた。

「パイナップルあるか」
「うちパイナップル中心に育ててるんで」




部屋に上がると必要最低限のもの以外何もない殺風景なスペースと少し物がごちゃごちゃしているスペースがあって、すぐに前者が五島のスペースなのだろうな、と思った。俺なら前者だからだ。殺風景なスペースにダンボールが2つ置いてある。きっとあの中に野菜やら果物が入っているのだろう。ダンボールの位置が歪にズレてることからしてさっき聞いたズタンガタンという異音はコレに躓いた音なのだろうなと思った。
適当に座ってて下さい、と五島に言われ適当に座る。タンマツをいじったりしながら待っているとしばらくして声がした

「お待たせしましたー」

そう言いながら両手に皿を持ちながら戻ってきた。か透明の薄い皿に綺麗に一口サイズに切られたパイナップルがのっていて、もう一つの同じような皿には食べやすいサイズに切られた林檎がのっている。

「…いただきます」
「んふふ…どうぞー僕もいただきます」

手渡されたフォークでパイナップルを口に含む。久々に口にする味は素直に美味しいと思った。美味しいですか、と問いかける五島にまあまあ、とだけ言う。

「お前って、髪の毛下ろすとそんな感じなんだな」
「ああ、これですか、長い前髪ほんとは嫌なんですけどね…」
「短く切るとものすごい方向に跳ねるから嫌だとか」

ずっと伏せがちだった瞼が少しだけ見開いた。さっきも思ったがこいつの驚く表情は少し面白い

「なんでわかったんですか」
「…俺もそうなんだよ。短いとそうなる。だからとはいえ五島みたいに髪を上げようとは思わないけどな」

どんな表情をするかな、と思い少し挑発するように言ってみた。どうせ落ち着いたようにハイハイとあしらわれるのだろうな、と考えていたが

「そうですね、伏見さんには到底似合いそうにもないですしね。」

そう言って腹立たしい笑みを向けた。そうだった。こいつは俺と似た感性を持っているんだった。やはり少し飄々とした性格以外は似ている。悪態には悪態で返す。俺が五島ならそう返すだろう。

「あれ?怒っちゃいました?」
「別に…」

少しだけ怒気を拭えない声でそう答えると五島は笑ってスミマセン、と反省していないような感じで答えた。
その態度にまたイラついたが我慢して前々から気になっていたことを問うてみることにした。

「あと前から少し思ってたんだけど、アンタってなんでセプター4に入ろうと思ったの」

そう問うとなんだか驚いたような聞かれたくないことを聞かれたというような気付くか気付かないかくらいで微妙に表情を変えた。
「答えたくなかったら別にいい。純粋に疑問に思っただけだから」
「…あまり答えたくないですね。だけど答えるとしたら、僕は室長に拾われたんですよ」
「拾われた?」
「ええ、あることがきっかけで僕は室長に従う人生を歩むことを決めたんです。言えば僕は室長以外わりとどうでもいいんです。室長が俺を1人の隊員としてでも必要としてくれるならそれでいいんです。室長が僕のことを考えていなくて、周防尊のことだけ考えていても伏見さんが1番のお気に入りでも、誰か僕以外のことを考えて大切に思っていても。」

そう語る五島の目に光は無く、だが透き通っていた。その目を見てやはりどこか自分を見ているような気持ちになった。

「アンタは…室長のことが好きなんですか」
「まさか。尊敬の気持ちしかないですよ。だけど…伏見さん、あなたのことはあまり好きではないですね」
「俺が室長のお気に入りだからですか」
「ええ」

そう言った五島の表情は好きではない相手に向けるような曇った表情ではなくただ色のない目で微笑んでいるだけだった。
その意外な表情に少したじろいだが、なんだか少しいい気分になった。この部屋に来てから初めて自分が優位に立った気がした。少し表情が綻んでしまう。

「部屋に招待されて面と向かって嫌いと言われたのは初めてだ」
「これが僕の性格ですよ」
「最悪だな」

俺、仕事に戻るからと言い立ち上がると五島も立ち上がりまた来て下さいね、と笑む。イラッとしたが何故か悪い気分にはならなかった。

「誰が」

少しだけ笑って言うと微笑んでいた五島の表情が曇った。

「でもお前のその性格嫌いじゃない」
「それはどうも。僕もです」







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