「な!卒業前にさ!俺やりてえ事あるんだけど!」

きっかけは八田のそんな一言だった。

「卒業って…まだ2年だぞ俺達」
「まだ体育祭とか進路とか卒業の準備やらでゴタゴタしてない今だからこそ出来ンだよ!」
「……何がやりてーんだよ」
「肝試し!」
「…は?」
「理科準備室に行くんだよ!」

八田が言っている話は俺らが入学した時から有名な噂の話で、理科室の隣の理科準備室に出る幽霊の話だった。いわゆるこの学校の七不思議みたいなもの。理科の実験に失敗して亡くなった生徒の霊が夜の七時になるとうろついているとかいう馬鹿げた噂だ。

「はぁ…んなのただの嘘話だろ…大体お前この話信じてなかっただろうが」
「う、うるせえな!なんか気になって卒業してもモヤモヤしそうなんだよ」
「……」
「な!頼む猿!」
「…ハァ」

なんだかんだで俺は押しに弱い。仕方が無いので暇潰しにでもなるか、と付き合ってやることにした。



放課後。俺達は七時に近くなるまで教室に残ることにした。しかし教室では数学の補習があるらしく、図書室にでも行こうかと思ったのだが、担任から別に教室に居てもいいとお許しが出た。というのも、補修対象者が一人だけだからというのもあるらしい。

「アッハハハ!補習お前だけかよ道明寺!ダセー!!」
「うるせー!!つーか八田なんでお前は補習じゃねーんだよ頭悪いだろ」
「そんなの俺の実力に決まって…」
「赤点ギリギリだ」
「ちょっおま、猿!余計な事言うんじゃねえ!」
「チクショー!!!」

道明寺に課せられた補習プリントの量は尋常ではなく、かわいそう、という一言に尽きる。このままではこいつの帰宅は明日になるな、と思い、手伝ってくれと助けを求めたその手をとってやることにした。

「しょうがねえなぁ俺も手伝ってやるよ」
「いい、八田にやらせると間違いだらけになんだろ」
「あぁ!?」
「うるさい八田。その通りだろうが」
「ぐっ…」

今日は一日中曇りで、今にも雨がふりだしそうだった。教室が暗くなってきたことに気が付いたらしい八田は誰かが補習のことを知らずに消したのであろう電気をつけに行き、暇そうに黒板に落書きをしていた。

「あー終わらねー」
「手ぇ動かしてねーからだよ」
「動かしてるよ!わかんねーから進まねーんだよ」
「つかお前頭いいほうだろ。なんで補習」
「俺は文系なんだよーあーやだーもう手が動かないー」

ハァ。これじゃあ終わりそうにもない。聞けばプリントのページ数は74ページ。やってられねえ。このままほっといて帰ってやろうか、と思った矢先、救世主が現れた。


「貴様ら何をやっている。もう下校時刻はとっくに過ぎているのだぞ。」

夜刀神狗朗。天下の風紀委員。そして俺らのクラスメイト。

「おおおお夜刀神ー!!天からの授かりもの!!」
「なっ、何を意味のわからないことを抜かしているんだっおいっ離れろ!」

ガタリと席を高速で飛び出して夜刀神に抱きつく道明寺。それを心底嫌そうに顔を鷲掴み抵抗する夜刀神。

「なー夜刀神も手伝ってくれよ頼む!」
「何をだ」
「数学の補習プリント」
「断る」
「えーでも夜刀神が教室の鍵閉めねーといけねーんだろー?」
「貴様らに鍵を預ける。責任をもって職員室に返せ。」
「えぇー!!やだよ!!ね、お願い!二人で約70ページは無理なんだよー!」
「3人いるだろう」
「1人は使い物にならないんだよ察して」
「オイ!聞こえてんぞ道明寺!」

一気に教室が騒がしくなりだしてまたため息が溢れる。七時になったら道明寺をほっといて帰ろうと決めた。だってこいつほとんど俺にプリントやらせてる。気づいてないとでも思ったか。

「夜刀神…俺からも頼む手伝ってくれ…」
「……!」

俺の一言でギャーギャー言ってたやつらの声がピタリと止む。なんだよ。

「伏見が人に物を頼むとは…」
「伏見が俺のために…!」
「猿…頭でも打ったか?」
「お前ら……」



結局夜刀神が手伝ってくれることになり、道明寺も真面目にプリントを消化しはじめた。八田がちょいちょいいらん話をしながら、時間は過ぎていき、もう七時前になっていた。

「あーあとプリント二枚で終わるー!」
「この二枚はお前がやれよ」
「わーかってるって!サンキューな伏見!夜刀神!」
「まったくだ。なんで俺が貴様のために時間を割いてやらねばならんのだ」

ブツブツ漏らす夜刀神にヘラヘラ笑う道明寺。一方で珍しく大人しい八田はあまりにも退屈すぎて眠ってしまったらしい。

「そーいやお前らはなんで残ってんの?」
「ああ…なんか八田が…」

理科準備室に肝試しをしたいと言い出した八田の話を説明した。

「え、それ俺もついていきてえ!」
「はぁ?別にいいけど…なんならお前ら二人だけで行けよ」
「やだよ八田と二人だけとかなんか心細いだろ!」
「聞こえてんぞ道明寺!!」
「げっ、お前いつから起きてたんだよ」

寝起きの八田の顔は言っちゃ悪いがブサイクすぎて見れたもんじゃない。少し笑いそうになるのを堪えて夜刀神に話を振った。

「お前も行くか?」
「いや、俺はいい。帰らせてもらう。」
「だよな。普通に帰れるお前が羨ましいぜ」
「は!?夜刀神帰んの!?ノリ悪!!」
「失敬な。ここまで手伝ってやったのを感謝してほしいくらいだ。」
「夜刀神も行こうぜ!前に三輪先生がユーモアのない奴は人間として不完成だっつってたぞ!!」

八田が夜刀神の尊敬する三輪一言先生の名を口にした瞬間夜刀神の動きがピタリと止まった。そして八田と道明寺がニヤリと笑う。

「…同行させてもらおう」


こうしてそんなに絡んだことのないメンバーも含めてのカオスな肝試しが始まった。






「じゃあ1人1人順番に理科室入って行って、その奥の準備室の黒板に好きな食いもん書いてって最後のやつがそれを消すってのはどーよ?そんで書かれてた内容を覚えて皆に伝えンだよ。そうしたらズルしてるかしてないかがわかるだろ?」

道明寺の提案に俺と夜刀神は好きにしろと言わんばかりに頷いた。

「2人じゃダメなのかよ?」
「それじゃあなんか面白くねーじゃん。」
「まぁ…」
「あ、もしかして八田怖くなってきちゃったー?」
「だっ誰が!それはお前のほうだろ!」

これだけギャーギャー騒いでてよく教師が来ないな、と少し不思議に思う。夜刀神も同じことを考えているようで、今日は職員会議か何かか?と呟いていた。そんなこんなで三階にある理科室に到着し、夜刀神が鍵を開けたあと、道明寺が楽しそうによし!と気合いを入れた。

「じゃあ最初は俺からな!」

先陣を切って進んでいったのは道明寺。変に男前だ。なんとなくここにきて肌寒くなったような気がして、雰囲気あるなあ、と他人事のように思う。一方で八田の顔はみるみる青ざめているのだが。

数分たって道明寺が帰ってきた。その顔は行く前となんら変わらず飄々としていて、なんだなんもねーじゃん、とつまらなさそうに感想を述べた。

次に顔が青ざめた八田が進んでいった。俺もついていくかと訊いたのだが変に強がっていらねえ!と言われた。かわいくねー。
数分後無事に帰ってきたのだが青ざめた顔のままパタリと倒れてしまった。
「おいおいこいつ大丈夫かよ」
「大丈夫なんじゃないの」
「その様子だとお前が最後になるがいいか?俺は別にどちらでもいいのだが」
「あー別に俺もどっちでもいいから大丈夫」
「承知した」

八田に膝枕してやってる俺を見て気を使ってくれる夜刀神。話してみると案外ただの堅物ではないようだ。それにしてもこいつから肝試ししたいつったくせに倒れるとかありえねえだろ。

数分後、やはり夜刀神も何事もなく帰ってきた。これ俺行く意味あんまりなくないか。
そう思いながらも今更行かないとは言えないので八田を道明寺の膝に寝かせて理科室に入っていった。


「……さむ」

理科室の中は一際寒かった。夏の夜といっても肌寒いものではあるがここまで寒いか。半袖の制服が物足りない。

そのままさっさと奥に進んで黒板見て消して帰ろう。そう歩を進めようと足を大きく踏み出したその時。いきなりカーテンがぶわりと膨らんだ。なんだ、窓があいてるから寒かったのか。

窓を閉めようとカーテンを開けると、そこに、信じられない光景が。





人がいるのだ。





窓辺に座るそいつと俺の距離は近く、突然のことに声も何も出ない。誰だ、こいつ、というか、なんで、ここに、

「……伏見さん?」


なんで、俺の名前を知っている

コスプレ紛いの青い服を着た濃紺色の髪をくくって上げているやけに綺麗な顔をした男。まだ少し明るい夜空と月の光に照らされたそいつに、若干の冷や汗が流れるが、何故か不思議と恐怖心は感じなかった。

なにか懐かしいような、匂い。

カーテンがまた、ぶわりとふくらんだ。




to be continue



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