「秋山先生、こいつ見えるんすか?」
「あ、ああ。はっきり見えるよ。」
「つか五島って…先生こいつのこと知って…覚えてるんですか?」
「……ああ。」

驚いた。まさかほんとにこの世界は五島のいた世界から転生した人がわんさかいるというのか。事実、秋山先生は五島のことを覚えている、前世の記憶を持っているということなのだろう。どこぞの映画みたいな話だ。

しかし感動の再会だろうに秋山先生の顔はどこか曇っている。それとは対照的に五島の目はきらきらと輝いていた。

「秋山さん、僕のこと覚えてるんですね!?うわぁ、すごく嬉しいです!」
「…お前、俺の事恨んでないのか?」
「え?なんで恨むんですか?寧ろ感謝してるくらいですよ!」
「っお前は!俺のせいでっ…」
「秋山先生、ここ職員室」

見えない相手と会話している異様な光景に驚いたような顔で周囲の教師がガン見しているというのに全く気付かない秋山先生をみかねて一声かける。するとハッとしてすぐにスミマセン、と周りの教師にへらりと笑った。その顔に教師達はほっこりとした顔になる。なんなんだこいつら。俺はこいつの顔見て癒されたことなんて一度も無いぞ。

「五島と少し話がしたいな、伏見くんちょっと五島借りてもいい?」
「借りるも何も俺のじゃないんで。どうぞ。あと話したいことってなんすか」
「ああ、忘れてた。昨日夜遅くに理科室で八田くんと道明寺くんと夜刀神くんと一緒に騒いでたでしょー。下校時刻過ぎてるのに騒いじゃダメだよ。なんか楽しそうだったから見逃したけど今回だけだからね?」

なんて緩いんだこの教師は。まあそういうとこは好感が持てる。適当にはーい、と言ったあと五島が口を挟んだ。

「僕理科室に住み着いててそこに伏見さんが来てとり憑かせてもらったんですよー」
「そうなのか!じゃあ理科室で話しよう!」
「そうですねえ、あそこが一番落ち着きますしね」

じゃあ俺にとり憑くなよ理科室戻れよ。そう言っても多分無駄なので口を噤む。

「あの、秋山先生?これからホームルームなんすけど」
「ああ、自習ってことにしておいて」
「あんた自由すぎるだろ」



ーーーーーーー



教室に入ってすぐ黒板に''ホームルームは自習 by秋山'' と書いて教卓に資料を置いて席に戻る。そこにはまだ道明寺が座っていたので先程と同じ席に座った。どうやらこの席の男子は欠席らしい。

「おーおかえり。なんで呼ばれたの」
「あれ運ばされただけ」

教卓を指差すと納得したような顔をする道明寺。なんかこいつの顔いちいち腹立つな。

「急いで委員会から戻ったというのにホームルーム無しとは…」
「お、夜刀神はよー」

今まで同じクラスになってから話したこともなかったであろう夜刀神にほいほい他愛のない話を持ち掛ける道明寺。誰とでもすぐに仲良くなれるタチらしい。俺には到底無理だ。

そんなこと様子をボーっと見つめながらさっきの秋山先生と五島の様子を回想する。

『 っお前は!俺のせいでっ… 』

秋山先生の言いかけた言葉。先生のせいで五島が死んだとかそんなとこだろうか。俺にはどうでもいいことだと割り切りたいがこんな風に断片的に色んな話を聞かされては気になってしまうのが人の性というものである。
あんなに昨日の五島は自分の過去について話したがっていたのに今日はまだしつこく言われていない。どうせきっと今日の夜にでも聞かされるのだろう。

「猿?どうしたボーっとして」
「んー別になんでもない。」
「そうか?つーか今日コンビニで買ったんだけどこの新発売のポッキーめっちゃ美味いぜ!食うか?」
「食べる。」



ーーーーーーー





「秋山さん久しぶりですねぇ。まさか僕のことが見えるなんて。理科室にずっといたのになんで見えなかったんでしょう」
「俺なかなか理科室行かないからな…担当教科国語だし…」
「そうなんですかー」

理科室に着いた秋山と五島は各々適当な場所に腰掛けた。五島はお気に入りの窓際、秋山は窓際近くの椅子に座った。
無人の理科室にも冷房は効いているようで、ひんやりと心地よい。しばらくの沈黙のあと、その静寂を破ったのは秋山だった。

「五島とこんな風に話せる日が来るなんて思わなかった。俺、お前に謝りたい。ほんとに償いきれない事をしたと思ってる」
「いいんですよ。むしろ感謝してるんですから。あの時秋山さんが伏見さんを連れて逃げてくれなきゃ、すごい被害が出ましたよ。」
「…でも俺がもっとしっかりしてたら」
「いいんです。秋山さんの判断は正しかったんですよ」

優しく微笑む五島に目頭が熱くなる。自分のしたことにずっと罪悪感を感じ、毎日と言っていいくらい過去の夢を見るくらい悩んでいた。許されたからと言って自分のしたことが全て許されるとは思っていない。けれどもずっと背負っていた重荷が軽くなるくらいには五島の一言には秋山を救う力があった。

「それにしてもびっくりしましたよー僕は成仏さえしてないっていうのに皆同じ容姿と名前に生まれ変わっちゃってるなんて。歳は皆違っているようですがね。」
「ああ…俺も前世の記憶を取り戻したのはつい最近だけどびっくりしたよ。」
「ここはあれから何年後の世界なんですか?」
「今は…王がいた時代から60年経った世界だよ。今は王やストレインはいない。普通の法治国家だよ」
「そうですか…」

五島の表情は安心したような、でもどこか切なげな顔で、ふわりと微笑んだ。

「…ところで僕どうやったら成仏出来ると思います?」
「っえ、わかんないの?」
「はい。というか60年間ここに浮遊していたという自覚もないんですよ。ここは僕の死んだ廃ビルがあった場所だったってことは分かってるんですけど、気付いたらもうここに学校が立ってて。なんか1週間の感覚というか。」
「…謎だな……というかここあの場所だったんだな…」

また表情を曇らせる秋山に五島は内心少し面倒くさいな、と思った。気にしなくていいと言っているのにこうやって何もかも背負い込もうとするのが秋山の良くないところだ。

「あ、弁財さんとかはいないんですか?日高とか」
「いや、会ってないな。皆がみんな転生するわけではないんだろう」
「出会ってないだけかもしれませんけどねぇ」
「ああ…」
「じゃあこの辺でそろそろお開きにして教室に戻ったらどうですか?」
「そうだな…その前に一つお前に頼みがある」
「……?」





ホームルームの時間が終わる頃に秋山先生が教室に入ってきた。クラスの奴らにどこ言ってたんだ何してたんだと騒がれる秋山先生は相変わらずヘラヘラしていてさっきの五島に対して一瞬だけ見せた剣幕が幻かのようだ。

その五島は秋山の後を追って教室に入り当たり前かのように俺の隣の空席に座った。

「何話してたんだ?」
「昔の話とかー…まあ色々です」
「ふーん。お前と秋山先生の関係ってなんだったの」

そう口にしたところで少しだけ後悔した。こいつについてもう少しよく知りたい、なんて欲が出てきてしまっていることを、こいつに悟られてしまいそうだったからだ。でも心配は杞憂だったようで、何でもないような様子で、五島は答えた。

「同僚です。まあ秋山さんの方が小隊長やってたり歳も5歳上だったので身分が明らかにアレなんで敬語ですけどね。」
「へー……ってちょっと待て。秋山先生が五島の同僚ってことは、俺、秋山先生の上司だったわけ?」
「そうですねぇ。めっちゃコキつかってましたよ19歳のくせに。」
「………俺何者なんだよつーか何様なんだよ…」
「本当性格丸くなりましたよねぇ伏見さん」








『伏見くんに前世で五島がどうやって、どうして死んだのかは本人に言わないで欲しい。』

秋山から告げられたのは口封じの内容だった。

『なんでです?』
『…もしかしたら、思い出してまた苦しむかもしれないだろ。お前は知らないと思うけど、お前が死んだあとの伏見さんは見てられなかった』
『……』
『…頼む、これが伏見くんのためなんだ』

伏見に全てを話し、そしてどれだけ自分が伏見のことを愛していたのか話せば成仏するのではないか、そしてあわよくば伏見さんが記憶を取り戻してくれればー…そう考えていた五島の考えを根本から否定される秋山の申し出に、自分の考えの自己中心さを思い知った。

確かに、伏見さんが思い出してしまえば僕にとって好都合だが、思い出さない方が''今''の伏見さんにとっての幸せだとしたら、僕がそれを壊すわけには行かない。


『ーーーわかりました。』





to be continue







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