嫌味なくらいな晴天と、蒸し暑い気温。 『ーーーて下さい!ーー、!』 ああ、またこの夢だ。 もう全て思い出したっていうのに、償いたくても償えないのに、許してくれないっていうのか。 やめてくれ。 『守ってあげてくださいね、僕の代わりに』 切なげな声の直後の、爆音。 何回見たって、助けられないのだ。自分の無力さを思い知らされて、何度も罪悪感に苛まれる。 「……」 目が覚めると視界がぐにゃりと天井の模様を映し出す。何回目だろう、この夢を見て涙を流すのは。 それは、もう数え切れないほどだった。 ーーーーーーー 「おっはよーございます伏見さん!朝ですよー!!」 「……るせぇ…殺すぞ…」 「わぁ、やっぱり相変わらず低血圧なんですねぇ」 昨日の一連の出来事は残念ながら夢ではなかったらしい。朝日と共に殴りたいほどに眩しい笑みを向ける幽霊男、五島蓮。 居なくなっているのを祈りながら眠りについたが、やはり都合よくいなくなっているはずもなかった。 「さ、お母様が呼びに来る前にちゃちゃっと起きて支度しちゃいましょう!」 「…」 こいつマジでうぜえ… こいつに言われるがままのようでなんだか気に食わなかったがハンドタオルを持ってリビングへ降りる。もちろん後ろからいらんやつも付いてきている。 両親は今日は朝早くから仕事に出ているらしく、適当な朝食のパンと置き手紙が置かれていた。それを手に取りパンを一個食べ、歯磨きに向かおうとすると、後ろからグイッと服を引かれた。 「おわっ…なんだよ!」 「朝食食べ無さすぎですー。女子ですか!こんなんだから病的に肌が白いんですよ」 「うるせーな。別に食おうが食わなかろうが俺の勝手だろ」 「いーえ!伏見さんが心配で僕が成仏しなくなってもいいんですか!?」 「なんだよそれ…」 あまりにも食え食えとうるさいもんだから仕方なく残りのパン2つも頑張って食べた。吐きそう。 「つーかお前透けてるんじゃねーのかよ。なんで今引っ張れたんだ?」 「なんか意識すれば物にさわることも可能ですよ。そうじゃないとポルターガイスト起こせないじゃないですかー」 「……」 それからもうちの母親よりもめんどくさいくらいガミガミ言われながら朝の準備を済ませた。なんでこんなに疲れないといけねーんだクソ。 「伏見さんにはせめてこの時代では幸せに健康で長生きしてほしーんですよ…」 「あ?なんか言ったか?」 「いーえ何も」 「おっはよー伏見!」 「……っせえな」 「おーおー今日もご機嫌ななめでよろしい!」 教室に入ればいつも通り俺の席に座った道明寺が声をかけてきた。手前にいる八田はいつもは一緒に登校するのだが今日は部活の朝練が早いとかで先に登校していた。 「はよ、猿」 「ん」 道明寺に退けと言っても退かないことは目に見えていたので無駄なやりとりを避けて自分の席の横に座る。すると道明寺がやはり昨日の話題を持ち出してきた。 「な!昨日あれからなんかあったか?」 「…別に何も」 「俺は家帰ってすぐ塩自分の身体に振って清めたからなんも無かったぞ」 「ぶはっ!なんだよそれ!そんなことしなくてもなんか憑くわけねーだろ馬鹿」 憑いたんですけどね。今も隣でにやにや笑いながら俺らの話聞いてるやつがいるんですけどね。 「道明寺さんって今もアホなんですねぇ。この人僕の上司だったんですよ。」 隣で五島がブツブツ話しかけてくる。返事はしないが少し驚く。こんなアホがこいつの上司だったのか。 「僕は20で死んだんですけどその時道明寺さんは19歳。まだ未成年なのに小隊の隊長してたくらいすごい人だったんですよーまあアホなのは変わらないですけど」 「上司にすごい言い様だな」 思わず返事を返してしまい、ん?と怪訝な顔をする道明寺に慌てて誤魔化す。 「あ?伏見今なんか言ったか?」 「…いや何も。そう言えば夜刀神は?」 「あーあいつホームルーム始まるギリギリに戻ってくるんじゃね?風紀委員だから正門前で仕事してると思うぜー」 とりあえずうまく誤魔化せてホッとする。こいつがアホでよかった。安心して息をつくと五島が隣でクスクスと笑っていてマジでぶん殴りたかった。 「おーい伏見、秋山先生が呼んでる」 「は?なんで俺」 「知らねー。俺呼んでこいって言われただけだし。職員室来いってさ」 「……おーわかった…」 とりあえず名前もわからないクラスメイトに礼を言って席を立てば思っていたとおり道明寺がお前なんかしたのか?と聞いてきた。なんもやってねーよ 「伏見です。何のようですか秋山センセ」 職員室の前でぶっきらぼうに言い放てば、おお、と呟いてにこりと笑った優男教師が振り向いた。 「ああ、伏見くん。朝っぱらからすみません。ちょっと手伝って欲しいことがあって。あと、話したいこともあって」 「はぁ。」 秋山氷杜、俺のクラスの担任。 この教師は誰にでもいつでもニコニコしていて、なんだかいけ好かない野郎だ。優しげな空気を纏っているからか女子にすごく人気がある。怒ったらハンパなく怖いという噂は果たして本当なのだろうか。真相を知る者は一人もいない。 「この資料たくさんあって重くて持てなくて。進路関係だから進路委員の伏見くんに頼むのが専決かなって思ってね。」 「…八田も進路委員じゃないっすか」 「これ一人でも持てるでしょ?それに一人選ぶなら伏見くんがいいって思ったの。ダメだった?」 「…別に。ダメじゃないですけど」 ほら、こういうとこだ。天然タラシなところがどうも受け付けない。 なんだか調子を狂わせられているな、と舌打ちをすれば今まで静かに俺の後ろにいた五島がひょい、と顔を出した。 「秋山さん…秋山さんじゃないですか!うわーもしかしたらと思ったけど本当に秋山さんだー…」 五島が少しだけ高揚したような口ぶりで秋山に話しかける。だが聞こえるはずもなく秋山先生は話を続けた。と思ったその時。 「ーーーーーー五島?」 「!?」 笑みを浮かべ細めた目から一転、見開いたその眼は間違いなく五島を見つめていて、呟いた言葉がこいつが見えているという何よりの証拠だった。 五島もまさか自分の事が見えるとは思っていなかったらしく、心底驚いたような、初めて見る顔をしている。 「ーーー秋山先生、こいつ、見えるんすか?」 to be continue △ back ▽ |