眠り姫に目覚めのキスを(リューク)




――――コンコン

時計の針は0時を回り、静まりかえった廊下に響くのは控えめなノックが2回。


「姫?」


誰かに聞こえやしないかと内心ドキドキしながら小声で呼びかける。


「姫?俺、リュークだけど」


1日の仕事を終え向かった先は愛しい彼女の部屋。
ベストのボタンと窮屈なネクタイを外しながら彼女の返事を待つ。


「あれ?」


部屋の中からは彼女の声どころか物音ひとつ聞こえてこない。
もう一度ノックをしてみたがやはり反応がない。

カチャリとドアを開けてみた。


「……姫?いないのか?」


いつものようにソファに座って本でも読んだりしているその姿はなくて。
それどころか部屋は暗く、唯一、壁に取り付けられてる小さな間接照明だけが灯されていた。


「……姫?」


薄暗い部屋を見回してみると……


「マジかよ」


姫はベッドの中ですやすやと寝息を立てていた。


「俺、今夜仕事が終わったら部屋に行くってメールしたよな?」


ポケットの中から携帯を取り出しメールを確認する。
もしかしたら未送信だったか?などと思ったが、そこには昼過ぎに彼女宛てに送ったメールには間違いなく「送信済」のマーク表示されていた。


「せっかく仕事を急いで終わらせてきたってのに……」


息を吐きながら真後ろのドアに背中を預けた。


「普通こういう時って起きて待っててくれるもんじゃないのかよ。しかもしっかりベッドの中で寝てるし……」


毎日の激務にも、キース王子のムチャ振りにも耐え、待ちに待った数日振りの彼女との時間。
きっと彼女も心待ちにしてくれてる、そう思っていたのに。


「マジで有り得ないんだけど……」


彼女と過ごすためにこれでも急いで仕事を終わらせてきたのに。
ここしばらく2人きりの時間が作れず彼女のぬくもりが恋しくていたのに。


「……う、ん」


彼女はころんと寝返りを打ったが目を覚ます気配は一向にないようで、モヤモヤした気持ちを吐き出すようにため息をひとつついてみたがその程度で収まるようなものではなかった。

そのとき……


「リュー…クさ……」

「えっ?」


ふいに名前を呼ばれパッと顔を上げる。
……が、どうやら彼女は目覚めたわけではなく寝言で自分の名を呼んだだけのようだ。


「……ハハッ、どんな夢見てるんだか」


疲れもピークで、待ちに待った彼女との逢瀬もこんな状況で。
でも今彼女は他の誰かじゃなく自分の夢を見てるのかと思ったら自然と頬が緩んでしまう。

だけど

やっぱり彼女の笑った顔が見たい。
かわいらしいあの声を聞きたい。
抱きしめて……ぬくもりを感じたい。


「おーい、起きろって」


ドアにもたれたまま呼びかけてみる。
だが反応はない。


「熟睡だな。おーい、姫ー。会いにきてやったぞ。起きろー」


すると彼女はふにゃと微笑み


「リュークさ……好、き……」


―――ずきゅん―――

ヤバイ、腰に来た。
ふるっと小さく身体を震わせたあと、1歩、また1歩、ベッドへと近寄った。
そしてベッドの淵に腰掛け、彼女の前髪をさらりと指ですくう。


「なあ。それ……夢の中の俺じゃなくて、こっちの俺に言ってよ」


夢の中の自分に嫉妬するなんて馬鹿かな?
でも、やっぱり姫の笑顔も愛の言葉も自分だけがひとり占めしたいんだ。


「いい加減起きろって……」


ギシッとベッドのスプリングが音を立てる。

この眠り姫に目覚めのキスを。
そして、目覚めたのなら朝まで寝かせるつもりないから。


――くちびるが触れるまであと5cm――



〜fin〜





私にしては珍しく雰囲気のあるイラストが描けたので、それに合わせた小話を書いてみました。

私の妄想の中ではこの続きももちろんあるのですが、裏夢を書く勇気は持ち合わせてないので寸止めでwww
でも、「目覚めのキス」とか言ってますが、姫ちゃんは思い切り爆睡してるようなので起きてくれるとは思えませんので、リュークは引き続き悶々としてたらいいと思いますwww←







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