最近部屋からデイダラが出て来ないという報告を受け幻身ではなく生身で己がデイダラに割り当てた部屋に向かう。降した任務はきっちり熟しているようだがサソリの代わりにパートナーとして当てたトビを置いて単独で向かってしまうらしい。二人組で漸く熟せる任務も単独で行ってしまうので時には重傷で帰ってくる事もある。そして次の任務迄そのまま部屋に引きこもるのだ。
暁の他のメンバーは他人に執着が無い為放っておいているがパートナーであるマダラから苦情がきたのだ。人一倍写輪眼に執着のあるデイダラと供に居れないのはあのうちはの小僧との接点を無くすようなものだから何とかしろと。こいつがデイダラを噛ませ犬にしようとしているのは承知の上で俺自身何とも思ってはいないがこのまま単独任務を続ければいずれは致命傷を負うだろう。俺の野望を達成するまではまだ死なれては困る。
デイダラの部屋の前に来て印を組む。仲間内のトラブルを避ける為に部屋には特殊な仕掛けを施してあり、扉に書いてある字と同じ字の書かれた指輪を持っていなければ入れないようにしてあるのだ。だが俺はリーダーであるが故にある印を組めば全ての部屋に入れる事になっている。




「デイダラ、入るぞ。」




ノックなどという煩わしい事はしない。そのまま扉に手をかければ重苦しい音を立てて開いた。




「…んだよ、勝手に入ってくんなよな。うん。」




ぎゅっと腕の中にある人形を抱きしめる。
マダラからの報告にあったようにサソリの本体を持ち帰っていたらしい。
はぁ、と溜め息を吐いて続ける。




「お前最近単独で任務に行っているらしいな。二人組が基本の筈だが。」


「だからなんだってんだよ。あんなもんオイラ一人で片付けれるぜ。うん。」


「その割には随分と良い様をしているな。」




報告通り怪我を負ってもそのまま放置し続けているのだろう、外套は所々破けその下から覗く傷には化膿している箇所もあった。よくこんな状態で平気で居られる。




「トビはどうした。お前のパートナーはトビだろう。」


「はっ、あんな弱ぇ奴知らねぇよ。それにオイラの相方はサソリの旦那だ。」


「サソリはもう居ない。」


「居るじゃねぇか、ここに。」




そう言って腕の中のサソリをさも自慢そうに見せびらかすデイダラの目に以前の輝きは無く、抜け殻になったサソリ以上に濁って見えた。
予想以上に重症らしい。
彼らは二人組時代お互いに愛し合っていた。いや、依存していた、と言う方が正しいかもしれない。特にデイダラの方はサソリを寵愛し、まるで神か何かのように添い慕っていた。




「サソリはもう居ない。それはサソリの作ったただの傀儡だ。」


「黙れよ。」


「それを渡せ。」


「黙れっつってんだよ。」


「デイダラ、俺の言う事を…」


「リーダー。」




言い合いの末酷く冷めた声が室内を支配した。足元にはいつの間に作ったのか、はたまた最初から仕掛けてあったのか大量の蜘蛛型の起爆粘土。瞳孔の開いた青い釣り目が揺らぐ事はなく今まで感じた事のない程の殺気を放っていた。デイダラが印を組む。こいつは本気だ。本体である長門の頬に冷や汗が伝った。




「失せろ。」




力強く放たれた声に聞く耳を持たない事を悟り大袈裟な程に溜め息を吐いた。いや、溜め息を吐かざるを得ない程に体に力が入っていたのだ。そこいらの忍ならば声と共に脱兎の如く逃げ出していただろう。
俺は何も言わず扉を閉めた。暫く歩くと壁に寄り掛かり腕を組むマダラの姿。




「あいつはもう駄目だ。」


「そうか。」




チッと舌打ちを零す。それは使い物にならなくなったデイダラを残念がっているのか、それともまた新しい人材を探さなくてはならない苦労を思ってか。おそらく後者だろうが。
そのまま前を通り過ぎ瞬身を使って雨隠れへと帰還した。












「悪ぃな、リーダー。」




ぽつりと零した言葉は本人に届く事なく空気に溶けた。
デイダラも本当は分かっていた。サソリが居ないのも、このままじゃいけないのも。だが抜けれないのだ。彼と居た幸せな日々が今デイダラを苦しめている。
サソリの傀儡を強く抱きしめて髪に顔を埋める。微かにしか匂わないオイルにああ、大分薄れてしまったなと気分が少し落ち込む。だがそれもまた擦り込む事で元に戻るけれども。
そうしていつも誤魔化してきた。自分の心の傷も体の傷も、サソリが居なくなった事実さえ覆い隠して妄想に浸り、そしていつしか現実との区別がつかなくなった。




「旦那。」




名前を呼んで口付ける。変わらない硬質さに安堵を覚える。
旦那は敵に致命傷を受けて動けなくなったんだ。つまりただの故障という事。旦那の体は旦那にしか直せないし他人が触れるのはプライドが許さないだろうから仕方なくこのままなのだ。
例え物も言わず、手も動かさず、瞬き一つしなくても旦那は生きているんだ。
そう、生きてる。




「旦那は永遠だから死なない。」








「旦那はここに居る。」








「旦那は生きてる。」









「オイラ間違ってないよな?」




見つめてると旦那が微笑んだような気がした。それにつられてオイラも微笑む。
優しく口付けて押し倒す。ちゅっちゅっと音を立てながら首筋を辿り外套を緩ませる。ああ、あの日以来初めての行為だ。旦那が許してくれなかったからなかなか出来なかったんだ。
久しぶりの感触に酔いしれながらぷちりと釦を外した。




「…旦那。」




ズタズタになった彼の芸術と蠍の文字。指でなぞるとゴツゴツした段差に触れた。
黒く変色してこびりついた液体だった物。オイラはこれが何だったか知っている。
体がふるりと震えた。




「オイラ…、」




今、何考えてた?
正常な思考と狂った回路が交差する。伺うように旦那を見遣れば変わらない穏やかな顔。
ああ、オイラは間違っちゃいないんだ。

頷いて躊躇う事無くそれを口に含んだ。











酸欠の金魚
(そしてそのまま呼吸を止めた。)










暗い世界にぽっかり空いた穴。そこから見下ろす一人の青年。指から垂れる輝く糸は穴を通じてかつて愛した者に繋がれ戸惑う彼を促すように指が動く。




「さあ、来いよ。デイダラ。」




例え生前の自分の体と言えど彼に触れるのは許さない。それは俺じゃない。俺はここに居るんだ。

思い通りに動く彼ににやりと口角が上がった。






こっち向いて
(怖がる事は無い。さあさ、余所見しないでこっちおいで。)








劉様宅のフリリク企画に便乗しまして…病んでるデイサソ、で書いて頂いちゃいました!
こういうデイダラ好きなんです。旦那の毒にどっぷりはまってしまえばいいです。切なくて…ああもう何て言ったらいいか!
素敵な小説を本当に有難うございました…!


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