飛段×サソリ
※高校生パロ




ピンポンピンポンピンポン

今日も家の呼び鈴が、けたたましく俺を急かす。それは枕や布団の綿の中まで響いてくる、俺の最も嫌いな音だ。
ピンポンピンポンピンポン。煩い煩い煩い!こんな天気の良い朝くらい、気分良く起こさせてくれ。
内心悪態をつきながら、俺はなかなか言う事を聞かない身体をベッドから引きずり出す。洗顔をしてコップ一杯の水だけ飲むと、シャツをかぶりスラックスを穿き、通学鞄を引っ掴んだ。
未だ血流が滞っている頭に容赦なく突き刺さってくる電子音は不快な事この上ないが、仕方ない。皮肉にも俺は、毎朝この忌々しい音によって遅刻を免れているのだ。


準備を終えて玄関の扉を開けると、そこには呼び鈴責めの犯人が当たり前のように立っていた。

「おっはよ、サソリちゃん」

その見飽きた馬鹿面は低血圧と戦い終えたばかりの俺を見てニカッと笑い、携えていた自転車のサドルに跨った。
俺もいつものように、その後輪の上の荷台に腰を下ろす。奴はそれを確認すると、一気にペダルに体重をかけた。


こうして飛段と登校するようになって、何年経つだろうか。
思えば俺は餓鬼の頃から、こいつが呼びに来るより早く起きたためしがなかった。
今まで遅刻魔という称号を得ずに済んでいるのも、こいつのお陰かもしれない。だが、勉強面ではさんざん世話してやってるんだから、おあいこだ。

「サソリちゃんちゃんとつかまってろよ!」

男二人を乗せた自転車はアスファルトの道を猛スピードで進んでいく。
飛段の前髪は真正面から風を受けて後ろに流されていたが、俺は奴の広い背中に遮られて、吹きつけるそれを顔に感じることはできなかった。

点滅していた青が赤に変わり、ランドセルを背負った餓鬼どもが揃いも揃って足を止める。
空を見上げれば、自分たちの速度など雲が流れるよりも遅く感じるのに、ひとたび横を向けば緑色の水田を背景に、電信柱や信号機はあっという間に過ぎ去ってゆく。
…ん?信号機?

「おい、信号無視すんな」
「固ぇこと言うなって!」

それにしても、こいつの体力にはつくづく驚かされる。こんなにバンバン自転車を飛ばして疲れないのだろうか。
だがこいつはペダルのこぎを全く緩めないままに、後ろを振り向き俺に話しかけてきた。

「サソリちゃん相変わらず軽いなァ」
「…その呼び方やめろ」
「ちゃんと朝メシ食ってる?」
「………」
「でもお陰でスピード出し放題だぜ!」
「……前を向け」

奴は俺の心配なんかよそに、顔をこちらに向けたままゲハハ!と笑い声をあげた。
ッたく、どうなっても知らねえぞ…そう思った矢先だった、恐れていた事態が起こったのは。

目の前には曲がり角。飛段は脚の動きを止め、車輪の歯車がジリジリと音を立て始めたが間に合わなかった。耳をつんざくブレーキ音と共に前輪は塀にぶつかり、俺達は自転車ごと道路に横倒しになった。

「ッ、痛ぇ…」

派手に地面にこすれた肘が、ひりひりと熱を帯びてくる。出来る限りのしかめっ面をして元運転手のほうを見やると、元乗り物の隣で俺同様に尻もちをついて、目を丸くしていた。
だが、奴は転んだ衝撃も痛みも無いかのように、むしろ何事も無かったかのようにすっくと立ち上がり、あろうことか俺に向かって片手を差し伸べてきた。その大きな手は、擦り傷に血が滲んでいる。

「…てめぇふざけんな」
「悪ぃ、曲がり切れなかった」
「んな事言ってんじゃねぇ」
「まぁそう怒んなよぉ。ごめんってば」

余所見をして運転していた事など、もはやどうでも良い。そんな事より、気に食わないのはこいつの態度だ。一体何様のつもりだ、ニカニカと頬の筋肉を引き上げながら、俺に手を差し伸べてやがる。

「立てるか?サソリちゃん」

飛段はその返答など待たずに、俺の腕を掴んでぐいっと引き、立ちあがらせた。その力に俺の身体はいとも簡単に重力に逆らったが、どうやら、右足だけは違った。
一瞬がくんと身体が傾き、何とか左足だけでバランスをとる。右足首は真っ赤に腫れていた。そこだけに血流が集中したかのようにどくどくと脈が打たれ、靴下の締め付けが痒かった。

「…捻挫、した」
「ええっ!大丈夫かよ!?」

腕時計の針は既に8時を切っていた。少なくともこの足じゃ、俺は確実に遅刻である。
先行けよ、俺がそう言い終わるのとどちらが先だっただろうか。飛段は俺を肩と膝の裏に手を入れてひょいっと抱えあげ、学校に向かって走り出していた。

「…ッてめぇまじふざけんな!降ろせ!」

自転車に乗っていた時とは違う方向から、風が耳の横を通り抜け景色が移り変わっていく。
自分の肩に目をやると、先程確認した奴の掌に滲む血が、俺の白いシャツに赤黒い糊を貼り付けていた。

「サソリちゃんごめん!俺のせいで歩けなくしちまった!」
「んなの良いから降ろせ!チャリのケツでいいじゃねえか!」
「可愛いサソリちゃんがまた転んだらどーすんだよ!だから俺が保健室まで運んでってやんの!」
「ばっ…!止めろ馬鹿!」
「サソリちゃんやっぱ軽いなぁーゲハハ」

俺はふわふわ浮いた身体で散々暴れたつもりだったのに、幼馴染はその太い腕で俺をしっかりと抱え、ニッと自分勝手な笑顔を浮かべた。





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